打者・大谷の前半戦を振り返る<後編> 相手投手の配球と問われる対応力

丹羽政善

左投手への対応策は?

相手投手はリスクの少ない外角低め中心の投球が多くなっている 【Getty Images】

 さて、そういう中で前半を終えたが、大谷も今後、対策を練ってくる。そこでは何より、対左投手の攻略がポイントになるのではないか。

 前半を終え、左投手とは36打数6安打、6四球、13三振。打率1割6分7厘。ゴロは16個で、そのうちアウトになったのは13個。平均打球角度は1.8度である。前半の最後になってやや打球が上がるようになったが、とはいえ角度をつけることに苦労している。

 相手の配球を見ると、中心は外角の低め(図12)。しかし、それ以上に興味深いのが、内角の球に対する大谷のアプローチである。

図12:左投手が大谷を相手に投げたコース。キャッチャー側からの視点 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 図13は、左投手がどの球種をどのコースに投げたかを示したもの。図14はどういう結果になったかをまとめたもの。

 これを見ると、外角のボールになるスライダーなどはほとんど振らず、しっかりと見極めているのに対し、体に近い内角の4シーム、2シームには手を出している。そしてその多くは、空振りかファールとなり、相手がカウントを稼ぐとしたら、効果的な攻めとなっている。

図13:左投手が大谷を相手に投げた球種とコース。キャッチャー側からの視点。 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

図14:左投手が大谷を相手に投げたコースと、その結果 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 そうして追い込まれ、投手有利なカウントになれば大谷には分が悪い。

 7月20日、大谷は左腕のダラス・カイケル(アストロズ)と対戦し3三振を喫したが、2打席目と3打席目のカイケルの攻めは、まさにその配球。内角まっすぐのボール球で空振りを奪う、あるいはファールを打たせて追い込むと、最後も内角のボール球を振らせた。

 対右投手では、ここまで明確な傾向はないが、こうなると相手左投手は内角に速い球を投げてカウントを稼ぎ、あとはボール球を振らせればいい。

 大谷自身は左投手との対戦について、「見え方もすごくいい。ヒットが出ない割には、立っている感じも最初からそんなに悪くはなかったので、あまり気にはしてなかった」と話したが、相手にしてみれば、根拠のある攻めをしているように映る。

失敗をどう捉えるか

 ただ、前半を総括すれば、そうしたことも含めて、大谷にとっては必要な経験だったのではないか。前半戦の最後に「個人的にはすごい足りないところが多い」と大谷は振り返ったが、こんな話もした。

「いい結果が出るときと、悪い結果が出るとき、そこは表裏一体。もちろん、いい結果が出たほうがいいんですけど、悪かったときにどう捉えていくか、それをいい方向に持っていくということがすごい大事」 

 そういう中から例えば、開幕直前に右足の使い方を変え、メジャーの投手の独特の間に対応したときのようなアイデアも生まれた。

 後半もおそらく、いい打席、悪い打席の繰り返しになる。

 後者から何を学ぶか。失敗に何が隠されているのか。左投手に限らず、大谷の適応力が試されるのは、まだまだこれからかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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