打者・大谷の前半戦を振り返る<後編> 相手投手の配球と問われる対応力

丹羽政善

ゴロを打たせる相手の攻め

厳しくなる攻め方に大谷はどう対応していくのか? 【Getty Images】

 前回は大谷の打球角度が上がらず、打球の速度を生かしきれていない状況を説明した。ではなぜ、大谷の打球が上がらないのか? 投手の側から考えれば、やはり、ゴロを打たせようと工夫しているのだろう。そもそもなぜ、ゴロを打たせたいのか。

 大谷がゴロを打つ場合、右方向に打球方向が偏っているため(図6)、守備シフトがより効果を発揮する。もちろんゴロであるかぎり、柵を越えることもない。

図6:大谷がゴロを打った場合の打球方向(7月11日時点) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 では、相手投手はそのために、どんな配球をしているのか。以下に、大谷がゴロを打った場合、どのコースが多いかを示した(図7)。

図7:大谷がゴロを打つ確率が高いコース。キャッチャー側からの視点。(7月11日時点) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 これを見れば、外角低めからボール2、3個分上のところにボールを集めれば、ゴロになる確率が高いことが分かる。必然、相手投手もそこへ意識して投げてくる。

 図8は、相手投手が大谷に対してどこに投げているかを示したもの。やはり、外角低め付近にボールが集中している。

図8:相手投手が大谷相手に投げたコース。キャッチャー側からの視点。(7月11日時点) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 ただ、投手にとってはリスクのある攻めでもある。実はその上下に大谷が一番ラインドライブを打つ確率の高いコースがある(図9)。ちょっとしたコントロールミスが、長打につながりかねないのである。

図9:大谷がラインドライブの打球を打つ確率が高いコース。キャッチャー側からの視点。(7月11日時点) 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

攻め方の変化とスカウトの証言

 もっとも攻めの軸とするコースは変化してきた。外角への配球が増えたのは4月半ば過ぎから。3月29日の開幕から4月11日までの全86球の配球を見ると、内角低めが中心となっている(図10)。そもそも内角攻めは、内野ゴロを打たせるのに有効、というオープン戦での結果を踏まえたものだったが、その時点での8安打も、真ん中から内角低めを打ったものだった(図11)。

図10:3月29日〜4月11日までの大谷に対する全86球の配球。キャッチャー側からの視点。 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

図11:3月29日〜4月11日に大谷がヒットを打ったコース(全8安打)。キャッチャー側からの視点 【出典『baseballsavant.mlb.com』】

 サンプル数は少ないが、「器用に捉えるじゃないか」となり、内角攻めが見直されることになった。

 こうした攻めの変化について、あるア・リーグ東地区のスカウトに聞くと、カギとなった2つの打席を挙げている。

「まず、4月12日のロイヤルズ戦。ブランドン・マウアーの内角高めの2シームを右中間に運んだ。そして(同)27日のヤンキース戦。あのときは、ルイス・セベリーノの見逃せばボールというやはり、内角の速球をライトスタンドに叩き込んだ。あれで、対戦相手は、対策を迫られることになった」

 そこで行き着いたのが、外角中心の攻め。そこにゴロを打たせることのできるコースもあった。危険はあるが、内角ほどではないということか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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