ガスリー発言はホンダ批判にあらず 「0.9秒遅い」現状への不満と誤解
2つ目の事実誤認
ガスリーは予選タイムで0.9秒差を付けられたと語ったが、Q1ではシャルル・ルクレール(ザウバー)対比で0.437秒、Q2でも0.553秒差でしかなかった。Q2では中団最上位のロマン・グロージャン(ハース)に0.821秒差を付けられたが、フォース・インディアやザウバーとの差はそこまで大きくはなかったのだ。
確かにメルセデスAMGやフェラーリのワークスチームが予選で使う予選スペシャルモードと比べれば、ホンダやルノーはそのくらいの劣勢に立たされているかもしれない。しかしICE(内燃機関)の寿命を削りながら点火時期を極限まで早めノッキングを多発させて出力をひねり出す予選スペシャルモードが自由に使えるのはワークスチームのみで、寿命に余裕を持った運用がなされているカスタマーチームではその使用はかなり限定的であり、フォース・インディアやザウバーとの間にそこまでの出力差はない。
ガスリーが言うように、コーナーは同等でストレートで失った分がラップタイム差になっているのだとしたら、ラップタイム0.5秒差=20〜25kWというのは妥当な線だろう。
どうしてガスリーが0.9秒と勘違いしたのかは分からないが、ハースとの差を見てそれを0.9秒とやや大きめに言ったのかもしれない。
ともかく、ガスリーが言ったのはストレートで0.9秒失っているということではなく、タイム差も0.9秒もなかった。このふたつの事実誤認が、イギリスGP後の騒動を巻き起こした原因だった。
中団グループからの遅れは事実
オーストリアGPに投入した新空力パッケージはまだ使いこなせておらず、イギリスGPでは旧型フロントウイングに新型ノーズとフロアという中途半端なパッケージで走行した。
マシンバランスがうまく取れず暑いコンディションでも充分にタイヤが保ってしまうほどタイヤへの負荷が小さいトロロッソは、アゼルバイジャンGPからマシンバランスを大幅に変更し、タイヤをきちんと機能させられる暑いコンディションではマシン本来のパフォーマンスを引き出せるようになったザウバーとは真逆の特性だとも言える。
パワー面でも、ルノーPUに並んだとはいえメルセデスAMGやフェラーリのパワーユニットとはまだ大きな差がある。特に予選スペシャルモードでは差が広がってしまう。スペック3の開発と同時に、ベンチテストやシミュレーションで信頼性確認と予選スペシャルの追究を進めなければならない。
「僕たちはここ数戦で周囲のライバルたちほどのペースで進歩を遂げることができていないと思う。現実的な見方をすれば、今の僕らは中団グループの後方になってしまっている。だからこそオーストリアGPに投入したアップデートがきちんと機能するようにしなければならないし、それによって中団の真ん中へ戻れるようにしなければならないんだ」
「ザウバーやハース、フォース・インディアはこの間にエンジン側のパフォーマンスを増してきて、ギャップが広がってしまったんだ。でもこれだけタイトな中団グループだからこそ、全てをうまくまとめ上げて0.2〜0.3秒縮めればポジションがいくつも上がることになる」
イギリスGPの予選Q1で8位ニコ・ヒュルケンベルグと16位カルロス・サインツ(ともにルノー)の差は僅か0.439秒でしかなかった。中団グループ上位と下位の差というのはそのくらい小さく、極めてタイトな争いになっているのだ。
そんな中でトロロッソ・ホンダが再び中団上位の争いに加わることができるか否か。今彼らが直面している課題をしっかりと解決することが、シーズン後半戦のポジションに繋がることになる。
(テキスト:Mineoki Yoneya)