和氣「何が何でも世界のベルトを」 あきらめない根性で再び世界挑戦へ

船橋真二郎

フィリピン現地の生活をそのまま感じた

――今回、フィリピンのセブ島で5月下旬から6月までの2週間、キャンプを張ってきたそうですが、フィリピンは2回目になりますか?

 そうですね。前回はALAジム(セブの大手ジム)に。それで、今回はオメガジムに。うちのジムのトレーナーのレイ(・オライス)がフィリピン人で、そのオメガジムでやっていたので、レイと一緒に行ってきました。

――フィリピンでキャンプをした狙いは?

 ボクシングに集中できる環境でやりたかったので。そういう意味では朝からボクシング漬けでできて、めちゃくちゃいいトレーニングができましたね。

――スパーリングは何ラウンドぐらい?

 スパーリングだけで言うと30〜40ラウンドぐらいですかね。

――フィリピンの選手は、アグレッシブで思いきり振ってくるボクサーばかりではないですか?

 そうですね。そういう思いきりを感じながら、いいスパーリングができましたし、ケガをすることなく、うまくスパーリングを乗り切れたことは、自信につながりました。

――和氣選手のブログを見ると「現地の人と同じような生活をしないと行った意味がない」とコメントがあって、たとえば、食事も安いフードコートや屋台で取ったりしたということですが、それはどういう気持ちからですか?

 結局、フィリピンって物価が安いので、ちょっとお金を出したら、いい暮らしができるんですよ。でも、だったらフィリピンに行かなくてもいいって話じゃないですか。もちろん、ボクシングが強くなるために行くんですけど、ボクシング以外のことから何かを感じることで人間的にも成長できると思うので、そういう意味で現地に近い生活をしたかったですね。

――そういう生活を意識的に送って、現地のボクサーと接する中で感じたことは?

 向こうのファイターはジムに寝泊まりしているし、生活の基準が練習だけなんですよ。みんなで朝から強制的に練習しないといけない環境なんですね。そういう中でみんな、嫌な顔ひとつせず、笑いながら、ときに真面目に、ときには楽しんでやっていて、だから強くなるんだろうなと感じました。自分も(スポンサーを集めて)ボクシングだけの環境をつくってきましたけど、もっと生活がボクシングありきになれるように、より心がけてやっていますね。

新トレーナーとのコンビで引き出しも増えた

初めての世界戦ではグスマンの前に敗れてしまったが、「負けて強くなるって、すごく大事」と振り返る 【写真は共同】

――2年前の世界戦で敗れてから、ジムを移籍もして、環境も変わりました。ここまでを振り返ると、どんな時間でしたか?

 やっと自分の環境が板についてきたというか。環境を変えることは不安もあると思うし、慣れるまでに時間がかかることもありますけど、今は充実していますし、いよいよ自分が世界を獲るための環境が固まったと感じますね。

――環境を含めて、世界に向かう準備が整ったと。

 そうですね。ここの場所(武蔵野市)も自然が多くて、走るところもいっぱいあるし、住むにも環境がいい。移籍も含めて、自分はつくづく運があるなって。あとは1戦1戦、自分がしっかり勝っていけば、いよいよ世界チャンピオンだっていう自信しかないです。

――世界戦の敗戦をどう受け止めて、次につなげようと考えてきましたか?

 いい勉強になりましたし、負けて強くなるって、すごく大事だと思うんで。あの負けがあったからこそ、自分は今、強くなれていると思っているので。あとは、あの負けを生かすも殺すも結果次第だと思っているし、世界チャンピオンになれば、あの負けがあったからこそと思えるので、グスマン戦の1敗を自分で価値のあるものに変えていこうという思いだけです。

――再起後の4戦の中にはタイの世界ランカーとの試合もありましたけど、前回のローマン・カント(フィリピン)戦は集中力が高かったし、動きも切れて、内容としては一番良かったんじゃないかという印象がありました。

 それは結構、いろいろな人に言われます。

――カントも思いきり振ってきましたし、緊張感もあって、そういうところが和氣選手の良さを引き出した部分もあったように感じました。

 そうですね。久我選手とやる前に、ああいう試合ができたことは良かったです。それに新たにレイとコンビを組んでから1年過ぎたところなんですけど、やっと自分のポテンシャルと、レイの持っているものが合致して、本領を発揮できるようになってきたと思いますね。

――フィリピン人のトレーナーということで、やはり感覚も違いますか?

 トレーナーって、相性が大事だと思うんですけど、レイは俺の良さを引き出してくれるんで毎回、楽しいですし、すごく相性が合っていると思いますね。自分自身、いろいろ変化を感じられて、それが徐々に身に着いてきている感覚があるし、それが今、スパーリングや試合で少しずつ生きてきている感じです。なので、まだ完成するには時間がかかると思いますけど、まだまだ新しい自分が生まれてくると思うので。

――自分が知らなかった自分の良さを引き出してくれている感覚なんでしょうか?

 自分は単純にスピードと左ストレート、今まではシンプルなスタイルだったと思いますけど、多彩なパンチも打てるようになってきていますね。たとえば、レイに『ここからボディを打て』と言われて、俺が『今まで打ったこともないし、こんなタイミングで打てないよ』と言っても『大丈夫、できるよ、こうやるんだよ』と。それで教えられたようにやっていくと、打てるようになるし、俺の引き出しをどんどん増やしてくれますね。ここまでの4戦、相手のこともしっかり研究してくれますし。

――久我対策も一緒につくり上げていると?

 そうですね。相手に合わせて練習も変えてくれますからね。

誰が見ても楽しんでもらえる試合に

スピードの和氣、パワーの久我という見方が強いが、和氣もKO勝利を続けていることもあり、KO決着は必至だ 【船橋真二郎】

――スピードの和氣、パワーの久我という見方が一般的ですが、それについては?

 まあ、そのとおりだと思いますよ。相手のパワーは認めているんで。でも、技術はまた別の話だし、自分は技術でも負けてないと思っているから、スピードと技術を生かして、相手のパワーをねじ伏せる感じですかね。

――スパーリング経験が2回あると思いますが、その経験をどう考えていますか?

 いや、全然イメージはないですね。変に先入観を持ってもダメだし、あんまり覚えてもないし、今の久我選手だけをしっかり見るようにしています。

――周りの注目度、期待感を感じますか?

 自分の周りは、この試合に関して期待してくれているのと、ハラハラ、ドキドキ、不安に思っているのと両方ですかね(笑)。まあ、自分が世界に行くためには乗り越えないといけない壁だと思うし、それを周囲も分かってくれているので。

――そういう周囲の期待とドキドキを感じている中で、どんな試合を見せたいですか?

 勝つのは当然なんで、どういう勝ち方をするかっていう話ですよね。自分らしく、これが和氣慎吾のボクシングだっていう試合をみんな期待していると思うんで。内容は分からないにしても、どんなに苦しくて、厳しい試合になっても、最終的に勝利を手にするのは俺だし、もちろん1ラウンドでも早く圧勝して勝つのも俺だと思っているんで。

――自分らしいボクシングとは?

 まあ、根性じゃないですか(笑)。

――根性?(笑)

 根性。一番分かりやすいのはグスマン戦だと思うんですけど、あれだけ(4度)ダウンしても、11ラウンドにストップされるまで一度もあきらめずに前に前に出続けて、勝ちへの執念っていうものを見せたつもりなので。

――スピード、テクニック、カウンター。そういうボクサーとしての和氣慎吾像というものもあると思いますが、そうではなくて、もっと泥臭いところ?

 まあ、どっちに転ぶかは分からないということですね。自分のスピード、テクニックを生かして、圧倒して勝つのも自分らしさだと思うし、もちろん僕の中では圧倒的に勝つことは掲げてやっていることなので。ただ仮に厳しい戦いになっても、どんな状況になっても、俺は折れない心を持っている自信があるし、その両方とも自分らしさだし、最終的に勝つのは自分ということです。

――これに勝って、この先を狙っていると思いますが、今、和氣選手の目に世界はどのように映っていますか?

 何が何でも世界のベルトをガムシャラに獲りに行くことしか考えていないです。相手が誰だろうと、場所がどこだろうと。

――注目も集まる中で、どのような試合をして、どんな自分をアピールしたいですか。

 やっぱり、分かりやすいのはKOだと思っているし、あまりボクシングを知らない人が見ても、楽しんでもらえる試合内容にする自信はあるので。こんな面白い奴がボクサーにいるんだと思ってもらえるように、どんどん前に出て、目立っていきたいですし、注目してもらえたらうれしいですね。

――KOは頭にある?

 もちろん。純粋に1ラウンドでも早く終わらせたいんで(笑)。

――先ほど、ジムに流れている久我選手の映像を見て、KOのイメージをつくっているということでしたよね。

 はい。KO率は半分かもしれないけど、ここ最近で言うとずっとKOしているし、自信もあります。なのでKOは狙っていきます。向こうもKOを狙ってくると思うんで、そういう面白い試合になると思うし、誰が見ても楽しんでもらえる試合にする自信がありますね。

「やっぱり分かりやすいのはKO」と語る和氣 【船橋真二郎】

■和氣 慎吾(わけ・しんご)プロフィール
1987年7月21日生まれ、岡山県岡山市出身。24勝16KO5敗2分の左ボクサーファイター。岡山商科大学附属高3年時に全国高校総体(インターハイ)出場。2006年10月、初回KO勝ちでプロデビュー。2013年3月、のちのIBF世界スーパーバンタム級王者、小國以載(VADY→角海老宝石)を敵地・神戸で10回終了TKOに下し、東洋太平洋スーパーバンタム級王者に。同王座は5度防衛後、返上。2016年7月、ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)とのIBF世界スーパーバンタム級王座決定戦に臨むも11回TKO負けで王座奪取ならず。再起後4戦全KO勝ち。2度目の世界挑戦を目指す。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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