日本代表のW杯4試合をデータで振り返る ベルギー戦で見えた敗因と地力の差

清水英斗

柴崎は4試合を通じ、日本の司令塔として存在感を示した 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 コロンビアに2−1で勝ち、セネガルとは2−2で引き分け。3戦目はポーランドに0−1で敗れながらも、他会場の結果によってグループリーグ突破を決めた。そして、ベスト8が懸かった決勝トーナメント1回戦、ベルギー戦は2−3で逆転負け。日本代表のワールドカップ(W杯)は終わった。もう遠い昔のことのようだ。

 今回のW杯ロシア大会では、スポーツの競技分析を専門とする『Instat』のデータが、メディアに提供されている。それを用いて日本代表の4試合を振り返ってみよう。

後半にパフォーマンスが上向いたコロンビア戦

 まずはコロンビア戦。パスやドリブル、シュート、守備チャレンジなどの成否と効果を数値化した指標『Instat index』によれば、日本の選手で最高点を出したのは、柴崎岳で375点だった。以下、330点の香川真司、315点の長友佑都、299点の酒井宏樹、289点の大迫勇也と続く。日本の平均スコアを上回ったのは、この5人だ。

 最高点の柴崎は、11回のデュエルで8回勝利し、勝率73%を記録した。また、パスデータが大きく伸びたのは後半だ。ボックス内へのパスを8回中5回成功させるなど、チャンスに多く関わり、後半にスコアが急上昇している。

 この試合は、前半と後半で柴崎のプレーエリアが変化した。前半はセンターバック(CB)の近くに下がるか、あるいは右ハーフスペースにポジションを取って右サイドへ送るか、左サイドへダイアゴナルにサイドチェンジを狙う。このパターンがほとんどだった。

 一方、長谷部誠は、柴崎と反対の左ハーフスペースにポジションを取っている。退場で相手が1人少なくなった状況ではあるが、前半は左ボランチと右ボランチが、バランスを崩さずにプレーした様子がプレーマップからうかがえる。ポゼッション率は日本が49%と下回った。

 そしてハーフタイム。このリスクマネジメントが強すぎたチームに対し、西野朗監督から「これは勝たなければいけない試合だ」とげきが飛んだ。

 後半は右サイドで酒井宏が高い位置を取り、原口元気が右ハーフスペースに絞ってきた。これにより、柴崎が常にハーフスペースをカバーする必要が無くなり、左サイドを含めて広範囲に顔を出しやすくなった。長谷部との関係は、前半の横関係から、縦関係に変化し、柴崎が敵ゴール近くでチャンスに絡む回数が増えている。ポゼッション率は67%と相手を圧倒した。

 一方、この試合であまりスコアが伸びなかったのは、乾貴士だった。前半から左サイドは長友が積極的に高い位置を取っていたが、そこでボールを持った乾のドリブルが、7回中1回しか成功していない。左サイドに展開して乾を中心に仕掛けるパターンは、直前の親善試合パラグアイ戦でも見せたため、コロンビアに見切られていた感がある。

 前半は攻撃パターンが少なく、硬直していた。後半に柴崎を中心とした中盤が流動化を成功させたことが、コロンビア戦のキーポイントだった。

攻守で昌子の活躍が光ったセネガル戦

昌子はセネガル戦でパス、デュエルともに高い数値をマーク 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 次にセネガル戦を振り返る。この試合、『Instat index』で日本の最高点を出したのは、306点の昌子源だった。以下、296点の乾、293点の酒井宏、287点の大迫、279点の長谷部、274点の長友、273点の吉田麻也と続く。

 昌子は試合を通して92%という高いパス成功率をたたき出した。その内訳も、前方へのパスが30本で全体の約50%を占め、積極的に縦パスを入れたことがうかがえる。さらに特筆すべきは、デュエルの勝率だ。チーム最多の27回のトライにおいて、20回の勝利。74%の勝率を記録した。また、身長182センチとCBとしての上背に欠ける昌子だが、地上戦が13回中9回勝利、空中戦が14回中11回勝利と、長身FWに対して空中でも競り勝っていることが分かる。

 セネガルのプレッシングに対し、勇気を持って縦パスを入れ、デュエルでも圧倒した昌子はMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)級の働きだった。チームとしてのポゼッション率は55%で、日本がある程度は試合をコントロールできた。

 また、セネガル戦では柴崎が259点、香川が262点と、コロンビア戦で高スコアだった2人の得点が低く留まっている。中央のMFがボールを受けた回数は、長谷部が59回、柴崎が38回、香川が36回(72分間出場)、一方でサイドの選手がボールを受けた回数は、長友が23回、酒井宏が31回、乾が27回(87分間出場)、原口が26回(75分間出場)と、日本は中央でよりボールに触っていることが分かる。セネガルのプレスに怯まず、昌子らが勇気を持って縦パスを入れたこともあり、中央で多くのボールを受ける形になったのだ。

 ところが、ボールを受けた後、香川はあまり決定的な仕事をしていない。キーパス(ゴールにつながるパス)は0本、ボックス内へ入れたパスも1本。しかも、この1本は失敗している。前方パスの比率も22%しかない。コロンビア戦でキーパスを5本中4本、ボックス内へのパスも3本中3本成功させたプレーに比べると、まったく違う傾向が出ている。

 香川はパス成功率83%、ドリブルは6回中5回成功と、ボールを失う回数は少なかった。しかし、中盤でボールを動かすことに徹し、ゴールに直結するプレーをしなかったことが、低スコアに留まった要因と考えられる。

 一方、柴崎は逆に、キーパスが4本中2本成功、ロングパスも5本中4本成功、ボックス内へのパスも7本中3本成功と、ゴールを意識したダイレクトパスをかなり狙っていたことが分かる。それは1点目の乾のゴールの起点にもなり、重要な役割を果たした。ところが、成功率はあまり高くない。前方パスが23本中13本で、成功率57%。全体としてもパス成功率は75%と低めに留まっている。この辺りが低スコアの要因だろう。

 しかし、狙いはハッキリしていた。香川が相手を動かし、柴崎が一発で射抜く。中盤はただボールを動かすだけでなく、意図を持っていたことがデータから読み取れる。ポゼッションの狙いを整理できていたことが、善戦の要因だろう。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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