日本代表のW杯4試合をデータで振り返る ベルギー戦で見えた敗因と地力の差

清水英斗

ポーランドのエースを完封した吉田

吉田はポーランドのFWレバンドフスキをほぼ完璧に封じた 【Getty Images】

 次は、ポーランド戦へ。最高点は吉田の336点、以下、宇佐美貴史298点、酒井宏288点、川島永嗣280点、長友270点、槙野智章265点と続く。それ以外は低スコアだった。

 この試合は終わり際のパス回しがあったので、パス関連のデータは割り引いて考える必要がある。特筆すべきは、デュエルだ。この試合の吉田はパーフェクト。6回のデュエルにすべて勝った。地上や空中を問わず、タックルも全部成功。ロベルト・レバンドフスキに対しても、デュエル4回で4勝と完封した。相棒の槙野もデュエル7回で6勝。レバンドフスキに1回負けた以外は勝っている。両者でスコアの差が開いたのは、パスだ。吉田は82本中81本で、成功率99%。ロングパスも2本中2本成功させている。槙野は87本中79本成功で、ロングパスは2本中2本とも失敗している。この辺りでスコアに差がついたようだ。

 前線を見ると、宇佐美以外は軒並み低スコアだ。宇佐美はキーパスが3本中2本成功、ボックス内へのパスも7本中4本成功、クロスが3本中2本成功と、決定的な仕事をしている。デュエルも7回中5回勝っており、これらが高得点につながったようだ。

 逆に、岡崎慎司、武藤嘉紀、酒井高徳の3人は、デュエルの勝率が低かった。岡崎が15回中5回勝利で33%、武藤が16回中3回勝利で19%、酒井高は11回中1回勝利で9%と、ポーランドのDFに対して手を焼いた様子がうかがえる。ちなみに、後半から岡崎に代わって入った大迫は、15回中9回勝利で60%。やはり彼は半端なかった。

実は左に誘い込まれていたベルギー戦

日本のエース大迫だが、ベルギーのDFベルトンゲンとは相性が悪かった 【写真:ロイター/アフロ】

 最後にベルギー戦だ。

 唯一、日本のポゼッション率が43%と半分を下回った試合だった。シュート数はベルギーが23本で枠内8本、日本が9本で枠内4本。さらに、シュートのゴールへの平均距離が、ベルギーの15.8mに対し、日本は19.7m。あまり崩し切っていない。デュエルも全129回のうち、ベルギーが勝率58%、日本は42%と低水準だった。他の3試合のデュエル勝率が50%前後だったことを踏まえると、ベルギーに対してはかなり落ち込んでいる。キーパスも、ベルギーが32回中19回成功、日本は16回中7回。すべてのデータで日本が下回っており、地力の差は明らかだった。この状況で2−0と一時リードを奪ったこと自体が、サプライズではある。

 そんな中、日本で最高点を出したのは、301点の香川だ。以下、293点の原口、292点の柴崎、286点の長友、281点の吉田と続く。

 この試合の香川はキーパスを6本中4本成功させ、パスを受けた回数は52回でチームトップ。パス成功率も91%と高かった。また、香川と柴崎は、どの試合でもスコアが連動していることも興味深い。

 日本の話を進める前に、ベルギーのほうも観察してみたい。最高点を出したのは、右ウイングハーフのトーマス・ムニエで407点だった。ボールに多く絡み、キーパスを6本中3本成功、デュエルの勝率も62%と高かった。さらにFIFA(国際サッカー連盟)のトラッキングデータも参考にすると、ムニエの走行距離はチームトップの11.9キロで、スプリント数は65回と、他の味方の約2倍も記録している。

 日本戦のベルギーは、他の試合に比べて左サイド寄りの陣形を取っていた。平均ポジションデータを見ても、ベルギーの3バックが左に寄っていることが分かる。左ウイングハーフのヤニック・カラスコが高い位置へ行きやすい反面、右サイドはムニエが広範囲を上下動してカバーしなければならない。

 必然的に日本の攻撃は、ベルギーの薄いサイドを攻める形が多くなった。アタッキングサードへの侵入も、左サイドが66%と、中央の11%、右サイドの23%に比べても突出している。それを証明するように、起点となった香川のパス先も、左の乾が13回と圧倒的に多い。

 そこからどう崩すかがポイントであり、乾は見事なミドルシュートを決めた。しかし、全体としてプレーの精度は高くない。乾のキーパスは1本、ボックス内へのパスは4本、クロスも3本試みているが、すべて失敗した。中へ入れるパスは、ほとんど通っていない。薄いサイドと見せかけ、実は誘い込まれた感があった。そこを崩す質を上げるか、あるいは中を固められて崩すのが困難ならば、ボールを動かして試合のコントロールを重視するか。

 また、大迫のデータにも気になるところがあった。デュエルが27回中9回勝利で、勝率33%と低め。特に相性が悪かったのは、ヤン・ベルトンゲンだ。他の選手とは五分五分だったが、ベルトンゲンに対しては8回中1回しか勝てなかった。ベルギーはベルトンゲン側のサイドに人数を偏らせていたので、大迫を追い込みやすかったのだろう。

 大迫があまりサイドに流れず、ボールを受ける位置をトビー・アルデルワイレルト側にするなど、逆サイドへの展開を増やせれば面白かった。乾のデータを含め、サイドを偏らせたベルギーのポジショニングにハマってしまった感はある。2−0とリードした後のマルアヌ・フェライニへの対策だけでなく、ベルギーの戦術的な狙いに対し、もう少し裏をかくプレーが増えれば良かった。

 個人の差だけでなく、チーム戦術としても、明らかな差があった。ベルギーは続くブラジル戦でもシステム変更を行い、2−1で勝利を収めている。日本もこのような対戦相手に応じた戦略の立て方、逆にその戦略を崩す手段を、今後4年間でブラッシュアップさせる必要があるだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント