スペインの失われた過去と見えない未来 ロペテギ、イエロ……そして新監督

木村浩嗣

的中したとは言い難いイエロの采配

監督イエロの采配は的中したとは言い難い 【Getty Images】

「これしかなかった」と言えばフェルナンド・イエロ、スポーツディレクター(SD)の新監督就任もそうだった。チームのことを最も知り、選手の動揺を抑えられる人物は、彼しかいなかった。ただし、イエロは元有名選手ではあるが、監督ではない。SDは背広を着たマネージャー職であり、ジャージを着た現場の人間ではない。“同じサッカーなんだから大差ない。できるだろう”と考えるのはSDにも監督にも失礼である。

 もちろん協会もイエロの監督経験がゼロに等しい(2部のチームでわずか1年)のは承知していたが、あの時必要だったのは戦術家ではなく、何とかチームの体裁を取って戦わせることができる人物だった。

 監督イエロの采配は的中したとは言い難い。ジエゴ・コスタとダビド・デ・ヘアへの固執、ナチョ・モンレアルの選択、イスコへの寵愛とアンドレス・イニエスタとダビド・シルバ、イアゴ・アスパスへの冷遇には首を傾げる者も多く物議を醸した。だが、その一方で、成功よりも挫折の可能性がはるかに大きかったあの窮地でよく監督を引き受けてくれた、よく火中の栗を拾ってくれた、という感謝の声は今も大きい。

 先の戦犯探しのアンケートでも“三悪”はもちろん、ランクは選手の下なのだ。今さら戦犯探しもないが、個人的な意見を言わせてもらえれば、ルビアレス会長よりもフロレンティーノ会長とロペテギ前監督のコンビの責任の方が重いことははっきりしている。ロペテギ解任はチームの歩みにとっては悪い決断だった。しかし、それを余儀なくさせたのはこのコンビだからだ。

後任は誰に……?

センターFWにジエゴ・コスタを使うというアイデアは、どこまでロペテギのもので、どこまでイエロのものであったのか 【Getty Images】

 責任者が誰であれ、このW杯での惨敗がロペテギ解任という決定的なファクター込みであるという事実は、代表のプレースタイルに関する議論を不透明なものにすることになった。果たして、スペインのパスサッカーは今後も通用するのか否か? ロシアでの4試合、特にロシア戦を見る限り、引いた相手にはもう通用しない、という考え方が主流となろうとしている。

 だが、同時にロペテギであれば勝てたのでは、という意見もある。センターFWに、W杯予選で結果を出していたイアゴ・アスパスではなく、ジエゴ・コスタを使うというアイデアは、どこまでロペテギのもので、どこまでイエロのものであったのか。イアゴ・アスパスならば「勝利の10年」の継続路線であったし、ジエゴ・コスタならば4年前のブラジル大会で失敗した監督ビセンテ・デル・ボスケのバージョンアップ版ということになっていた。イエロの即興なのか、ロペテギの秘策だったのかはもう永遠に分からない。

 ロペテギ解任でチームの和に乱れが生じたことは確かなようだが、それはロペテギ派が反発した、という意味だけではなく、ロペテギ解任で安堵(あんど)した、という意味でもあったらしい。プレースタイルをめぐり、センターフォワードに誰を起用するかで選手間で意見の対立がもともとあり、それがロペテギ解任、イエロ就任により激化した、という声もある。確かに、集中力を欠くミスや無気力なパス回しなど、チームがモラル的に壊れていたことを示す材料はあった。とはいえ、すべてが憶測にすぎない。ロペテギが指揮を執っていたらどうなっていたかは、今となっては永遠の謎。残ったのは惨敗の事実と、何かを変えないといけないという焦りだけだ。

 すでに協会は新監督の人選を進めている。失望を希望に変え、2カ月後に始まるUEFA(欧州サッカー連盟)ネーションズリーグに備えるために早速、今週末にも新監督の発表があるとされる。報じられている名前は、キケ・フローレス(元エスパニョール監督)、ミチェル(元マラガ監督)、ルイス・エンリケ(元バルセロナ監督)……。キケ・フローレスはロングボールを使った堅守速攻で知られており、代表のスタイルとは180度違う。ミチェルはこれといってスタイルがなく、監督としての実績もない。ルイス・エンリケはプレースタイルは最も近いが、メディアと対立した過去を持ち人気がない。彼らが候補だということが協会の方針の定まらなさを象徴している。ロペテギだったら、という疑問が常に残る、総括のしようのないアクシデントのような大会では、それも無理がないことなのかもしれないが……。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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