浅野拓磨が語る現在の心境と「4年後」  特別な立場で経験したW杯で感じたこと

今井雄一朗

サポートメンバーとして日本代表に帯同した浅野拓磨。現在の心境と「4年後」に向けた思いとは? 【スポーツナビ】

 大会前の紆余(うよ)曲折も何のその、西野朗監督率いる日本代表はしぶとくしたたかにワールドカップ(W杯)ロシア大会のグループリーグを突破してみせた。コロンビアに勝ち、セネガルと渡り合い、ポーランドには“試合に負けて勝負に勝つ”を体現したその戦いぶりは、周囲の想像を良い意味で裏切っている。いったい彼らに何が起きているのか、監督はどんな化学反応を起こしたというのか。あるいはこれが、日本の真の実力だったのか――。ロシアで躍動する青いユニホームは、毎試合のようにわれわれを驚かせてくれる。

 ただし、この男だけは驚いていなかった。

「4年前の自分はロシアW杯に出ていると思っていた」と語り、その夢の実現まであと一歩のところまで迫った、浅野拓磨である。

 昨年8月に行われたアジア最終予選のオーストラリア戦では、W杯出場をたぐり寄せるゴールを奪うも、本大会のメンバー23名には選出されず。サポートメンバーとしてロシアまでは帯同したが、コロンビア戦後にはチームを離れて帰国した。悔しくないわけがなく、実際に彼は「悔しい」という言葉を事あるごとに口にした。それでも、浅野の心は落ち着いていた。彼にとってのW杯ロシア大会は、すでに終わっていたのだ。

 つかの間のオフを実家で過ごす中で、浅野は次の4年間を見据えた内なる戦いを始めていた。新シーズンからはハノーファーでの挑戦が始まる。「4年後には『W杯はこういうものだ』と、4年前との違いを語れるような選手になっていられるように」。サポートメンバーという特別な立場で見てきたW杯を経た、スピードスターの心境に迫る。(取材日:6月25日)

コロンビア戦前の選手ミーティングがターニングポイントに

日本代表の躍進について「想定内」と話す浅野。ターニングポイントとしてコロンビア戦前の選手ミーティングを挙げた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――今、日本代表が見せている躍進は想像通りでしょうか。

 そうですね。僕ら選手からしたら、どっちに転ぼうがそれは想定内というか、悪い時も良い時も、それがサッカーなので、驚きは常にないと思っています。グループリーグの戦いも日本代表の実力ですし、今まで散々言われてきたことも日本の実力です。

 ただ、サッカーというのはそういうものであって、常に良いチームなんてないですし、常に悪いかといえばそうでもない。驚きは全然なかったです。良い試合ができているな、自分たちの力が出せているなという感じですね。

――得点後の喜びようや試合中の選手の表情をどのように見ていますか。

 特にベンチにいる選手は、僕もそうでしたけれど、点が入った時にも、すごく喜んでいます。だけれど、何よりも自分たちがピッチに立っていない悔しさがあるんだろうなと思いますし、そういう思いを抱えながら喜んでいる姿が想像できます。出られない選手の気持ちまでも、僕は感じながら見ています。

 僕も日本が点を取った時にはすごくうれしかったですけれど、一度も興奮して立ち上がるようなことはなかったので。うれしさ半分、テレビを見ていても悔しさの方が強く出てくるというのが正直なところでした。その中でも、みんなで喜んでいることは紛れもない真実です。それは今まで見てきた、やってきた日本代表のままだったと思います。

――本大会直前の合宿や練習の雰囲気はどうでしたか?

 いつも通りだったと思います。僕はバックアップメンバーとして帯同している分、たぶん他の23人やスタッフよりも客観的にチームを見ることができていたと思います。23人の中でトレーニングをしていたら感じ方が違っていたかもしれないですけれど、客観的に見ていた自分からしたら、どこで緊張感が高まったかとか、どこでスイッチが入ったとか、それはあまりなかったと思います。常に緊張感がありましたし、常にみんな自分が試合に出たいという気持ちを持っていて、なおかつチームで戦う一体感も生まれていました。

 ただ、コロンビア戦の2日前くらいに、選手だけでミーティングをしたんです。特にテーマを決めず、長谷部(誠)さんが「今言いたいことを全部言っていこう」と。W杯を経験した人もいれば、僕のように初めての選手もいて。僕はその中でもメンバーに入れないことがほぼ決まっていたので、今の自分の立ち位置から見て、言いたいことを言い合って。そこで全員が何を考えているのかということを再確認できたという意味では、多少はそこでチームとしてどうやっていかなければいけないのかが、分かり合えた気がします。そこはひとつのターニングポイントになっていると思いますね。

西野監督とハリル前監督のチーム作りは「まったく違う」

ハリルホジッチ前監督と西野監督のチーム作りは「全く違った」という。西野監督は「選手の自由を優先する」監督 【写真:ロイター/アフロ】

――サポートメンバーでの帯同というのは特殊な状況でした。その話を聞いた時の心境はどんなものでしたか?

 メンバーから外れたと同時にその話を聞いて、まずは(落選に対して)「悔しい」という思いしかなかったです。監督から直接連絡が来て、「残念だけど」という出だしから非常に重い感じで、二言目には「バックアップメンバーとして帯同してほしい」と言われました。サッカーもそうですし、人生の中でこれを経験しておいた方が自分のためになる可能性が高いのか。正直、その短い一瞬の中で、すごく考えました。

 自分のためになるかならないかで考えたら、帯同しなければもっと早くオフがもらえて、早くチームに合流できるわけです。でも僕は行った方が今後の自分のためになる可能性が高いなと思いました。4年後にはメンバーに入ってW杯を経験するつもりなので、バックアップメンバーとして参加するのは今回だけだなと。今の日本の中で、世界の中でも、経験できるのは僕と(井手口)陽介だけだ、と思った時に、これは経験しておく価値があるなと思いました。あの一瞬の中では「休みたい」というのも正直ありましたけれど(笑)。

――現場で味わうW杯というものへの純粋な興味はありませんでしたか?

 それはありましたね。ただ、選手である以上、W杯に行くならやっぱり23人のメンバーに入って行きたいですし、僕はこのバックアップメンバーが、次のW杯に行くための“力”になっているかどうかといえば、正直、あまり関係ないと思っています。

 合宿に行って、間近でW杯やチームを見てきて、緊張感を味わってきたと言っても、それはあくまで第三者としてで、感じ方は100%違うわけです。23人として、スタメンとして、ピッチで感じているW杯とはまったく別のもの。だから今の僕は“バックアップメンバーとしてのW杯”については語れますけれど、W杯がどういうものかというのは、一切語ることはできないんです。

――浅野選手の代表歴は前任のヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代の方が長いですが、2人の監督のチーム作りは違いますか?

 チーム作りに関しては、まったく違うチームになっていたと思います。試合の入り方、試合の中でも、チームの雰囲気は違うなというのが感じられました。ハリルさんに関しては、こういうサッカーをしたいから、どういう動きでどういうボールを出して、というところまで、トレーニングから落とし込みたいというのは、すごく伝わってきました。

 それとは真逆で、選手の自由を優先するのが西野監督かなと思います。ある程度のベースだけはチームで意思統一して、攻撃での自由度であったり、ピッチの中で感じたことは選手に率先してやらせたいというのが、西野さんの考え方だと思います。その時点で、チームはまったく違うものになります。

 だからこそ今大会の試合を見ても、そのことが(香川)真司さんや本田(圭佑)さんの活躍につながっていると思います。経験があればある選手ほど、監督の指示が違うと思えばチームのために意見を言うし、チームのためになると思ったら監督の指示と違うこともやろうとする。そういう意味では、監督が求めていることに100%集中する選手もいる一方で、それが難しい選手がいるというのも、また事実だと思います。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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