大谷、打撃解禁で大きな一歩も… まだ見えぬ「投手・大谷」の復帰目処

丹羽政善

投手復帰は3週間後の再検査次第

左手でボールを投げる大谷。まだ右手でのキャッチボールは解禁されていない 【写真は共同】

 一方で今回、その投手としての復帰シナリオが、示されることはなかった。

 今回、キャッチボール開始にゴーサインが出るかとも見られていたが、見送られたのである。改めて3週間後――おそらくオールスター明けに再び検査を行い、状態を確認する予定。そこでようやく、キャッチボールが解禁されるかどうか。

 ちなみにこれは、田中将大(ヤンキース)のケースと比べれば遅い。2014年7月、田中はやはり右ひじ側副靭帯を痛め、14日にPRP注射を受けた。そして3週間後の8月4日からキャッチボールを開始している。その後は、キャッチボールの距離を伸ばしながら、8月16日に故障後初のブルペン入り。9月21日に復帰という道をたどった。大谷の場合はこれで、最短でもキャッチボール開始はPRP注射を受けてから6週間後ということになる。

 言うまでもなく、損傷の程度は決して同じではないので、田中のケースは目安にしかならないが、キャッチボールを開始してから必要な時間を考えれば、リハビリが順調だとしても、9月上旬に復帰できれば、というところか。

 となると、その時のチーム状況にもよるが、28日時点ではワイルドカード争いで2位のマリナーズに10ゲーム差をつけられており、この差があまり変わらないようなら、今季は無理をさせない、という決断も選択肢に入ってくるのではないか。靭帯を痛め、PRP注射を打った投手は、時間が経てば経つほど元の状態に近づくとのデータもある。

大谷の復帰で打線に厚み

 無論、現時点での10ゲームなら、あきらめるような差ではない。だからこそ、打者だけでも、大谷の復帰はチームにとって大きい。

 特にエンゼルス打線は、マイク・トラウト、アルバート・プホルス、ジャスティン・アップトンら主力は右打者が多く、バランスを欠く。かといって打線全体で右投手に苦しんでいる、ということではないが、5番に左の大谷が入ることで、欠けているピースが埋まる。

 シーズン序盤のように大谷の打撃が起爆剤となり、チーム状況が上向くならば、結果として、投手・大谷の復帰を急かすことにもなりうるが、そうしたジレンマはむしろ、歓迎すべき類だろう。

 ところで今回、打者復帰の目処が立った――とまでは言えなくとも、打撃練習を開始しただけでも朗報だが、手術のリスクが解消されたわけではない。

 投手としてリハビリを開始したとき、どちらに転ぶかは、いまだ見通せない。靭帯の損傷で一番の焦点はそこだが、キャッチボール開始が見送られたのは、大事を取っただけなのか、想定した回復とは言えなかったのか。

 まだまだ完全復帰を見据えれば、第一歩を踏み出しただけ。

 とはいえこの一歩がなければ、その先もない。その意味では大きな一歩であることは間違いないが――。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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