- 長谷川仁美
- 2018年6月21日(木) 11:10
多くの選手やファンから慕われる存在に

米国を拠点としていたが、日本の選手たちとも仲が良かった。
06年の世界ジュニアの記者会見では、優勝した小塚崇彦さんの記者会見で通訳を買って出た。その後、当時師事していたニコライ・モロゾフが拠点としていた米国・ハッケンサックでは、高橋大輔さん、安藤美姫さん、織田信成さんらとも一緒に練習していた。このころ安藤さんは、村上に英語を習ったという。
現役最後のコーチとなったフランク・キャロルがいるロサンゼルスに移ってからは、グレイシー・ゴールド(米国)やデニス・テン(カザフスタン)らと同じ時間に練習。キャロルコーチとゴールドから「(そんな弱気なんて)女子なのか?」と発破をかけられることもあった。
14年のNHK杯で村上が優勝した時には、ケガで4位だった羽生結弦(ANA)が、「ダイスが表彰台の一番上に立っていたので、拍手しに行きたいと思った」と表彰式を見に行った。
屈託のない笑顔と純粋なスケートで、ファンにも幅広く長く応援されてきた。そのキャリアを通して、村上大介という選手は誰からも愛されるスケーターとなっていた。
「スケートコミュニティーに恩返しを」

米国代表として世界ジュニアにも出場しているが、日本代表にこだわった。陽進堂のスポンサー契約も、自分で手紙を書いて取り付けたものだ。また4回転ジャンプも、練習ではアクセル以外の5種類は跳んでいた。昨年の初夏に初めてトライした4回転ルッツは、挑戦2度目で降りられたという。故障などで思うような結果を出せない時期、何度も引退が頭によぎったものの、その度に乗り越えてきた。それが、村上大介というスケーターだ。
引退発表では「スケートコミュニティーに恩返ししていきたい」と話した村上。現役生活を長く続けたが、まだ27歳と若い。これからどんなこともできる。
現役時代につらく悔しい思いをたくさん経験したからこそ、そして何より多くの人たちから愛されている存在だからこそ、これからの彼は、選手時代の活躍以上のものを見せてくれるかもしれない。引退を寂しいと思う気持ちよりも、これからの彼が見せてくれるものへの期待感が大きい。そんな引退発表だったように思う。