“ドイツサッカーのふるさと”を作る さらなる発展を目指す、W杯王者の試み
主要国際大会で結果を残し続けるドイツ
国際大会で安定した成績を残し続けるドイツ代表の長期的なプロジェクトとは?(写真は17年のコンフェデ杯) 【Getty Images】
2016年のユーロ(欧州選手権)ではベスト4、リオデジャネイロ五輪では銀メダル。それぞれ開催国のフランスとブラジルに敗れた。17年には、主力選手の多くを休ませ、若手中心で臨んだ6月のコンフェデレーションズカップを勝ち取ると、U−21欧州選手権でも、決勝でスペインを下して09年以来となる優勝を果たしている。そのほかにも女子代表がリオ五輪で金メダルを獲得し、男女とも各世代別代表が主要国際大会に欠かさず出場し続けている。
この安定感はどこから来るのだろうか。ドイツは母国開催となった06年のW杯で3位となってから、欧州選手権とW杯で6大会連続ベスト4以上という成績を残し、どんな大会でも優勝候補に名を連ねる。これには、それぞれの大会に向けての準備・対策が入念なだけではなく、より広範囲で長期的なプロジェクトが平行して行われていることと深い関係がある。
育成環境を整え、指導者育成のあり方を改善
代表チームマネージャーのビアホフは、育成がうまくいっている中でもさらなる改革を実行した 【Getty Images】
子どもたちの育成環境を整え、指導者育成のあり方を改善した。こうした取り組みが少しずつ浸透し、A代表のサッカーが変わり、ブンデスリーガのサッカーが変わっていった。いまでは若い選手や指導者がどんどん抜てきされ、新しいアイデアや理論が積極的に現場で活用されている。そうしてドイツサッカーは活性化されていった。
W杯ブラジル大会で優勝した後も、全く歩みを止めるつもりはなかった。悲願を達成してうぬぼれることも、目の前の勝利に固執して世代交代のチャンスを逃すこともなかった。
15年、毎年7月に3日間開催される国際コーチ会議の壇上で、代表チームマネージャーのオリバー・ビアホフが語った。
「ドイツサッカーの状況は良い。しかしさらに改善しなければならない点は確実に存在するのだ。われわれは90年W杯(イタリア大会)後の過ちを繰り返してはならない。『W杯を獲得した=もはや敵はいない』ではない。
育成がうまくいったと言われているが、他国もすでにここには非常に力を入れてきているし、成果も出してきている。われわれは次のステージに進んでいかなければならない」
事実、ここ数年の間にフランス、イングランド、最近ではオランダが目覚ましい成長を果たし、アンダー世代で好成績を残している。スペインの育成も相変わらずのクオリティーを誇っている。
「DFBアカデミー設立」という新たなチャレンジ
DFBアカデミーの合言葉は「ドイツサッカーのふるさと」。世代別代表の連携を良くしたいという思いがある 【Getty Images】
現在あるDFBオフィスからわずか数キロという立地。国際空港からも近い。総工費は1億900万ユーロ(約140億円)とされている。着工開始は18年3月で、完成は20年末を予定。15ヘクタールの敷地内に5面のピッチ、宿泊施設、分析ラボ、研究ラボ、DFBセンター、メディアセンター、体育館と、ありとあらゆる施設が完備される。
「フランクフルトは立地的に理想的な場所だった」と語るビアホフ。将来的には、例えば選手が代表合宿から所属クラブに合流する前後にここへと足を運び、体のケアやリハビリのために利用できるようにもする。風通しをよくし、気軽に足を運べる場所を目指す。
「ドイツサッカーのふるさと」
これが合言葉だ。その中にはA代表と各世代別代表との連携をさらに良くしたいというものがある。それぞれ別々に活動するのではなく、可能な限り密に交流ができる環境を作り出す。いまでも、例えばW杯前の合宿にU−20代表が帯同し、スパーリングパートナーの役割を果たすことはある。それをより日常的なものにしたいのだ。食事スペースを共有し、代表監督のヨアヒム・レーブがU−17チームと昼食を取り、A代表の選手がU−15代表と歓談スペースで話をする。若い選手にとって間違いなくモチベーションアップにつながるし、A代表の選手にとっては責任感と充実感を、自然と得ることになるだろう。