フィギュア新ルールは選手にどう影響? 演技の質を重視、4回転競争は沈静化も

野口美恵

4回転を4本跳ぶためには3種類が必要

同じ4回転ジャンプの制限により、3種類を跳べる宇野昌磨(写真)はどこまで果敢に挑んでくるか 【写真:坂本清】

(3)コレオシークエンスがより高得点に

 ジャンプの変更に注目が集まっているが、今回のルール改正の「意義」を象徴するのは、コレオシークエンスの得点が上がったことだ。これまでは「基礎点が2.00点で、最高4.10点」だった。しかし今回の改正後は、「基礎点が3.00点で、最高5.50点」。つまり、素晴らしい演技や滑りに対して得点を与える傾向が強まったのだ。ジャンプだけでなく、滑りそのものや演技力を磨くことの重要性が示されたことになる。

(4)同じ4回転ジャンプの制限

「同じジャンプの繰り返し」についても変更があった。これまで「3回転または4回転」では、「同じジャンプは2種類まで」だった。改正後は「そのうち4回転ジャンプでの繰り返しは1種類のみ」となる。

 つまり「4回転トウループ2本、4回転サルコウ2本」というような戦略はとれなくなり、「4回転を4本跳ぶためには3種類が必要」となる。フリーでの4回転は「2種類3本がメインストリーム」になる一方で、3種類跳べる選手がどこまで果敢に挑んでいくかに注目が集まることになる。

今まで以上に出来栄えが重要になる

新シーズンからオーサーコーチに指導を受けるメドベージェワ。各要素の質を高め、「GOE+5」の連発を狙う 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

(5)選手たちの動向

 ルール改正を受けて、トップ選手はどんな動きをすることになるだろうか? まず、この「技の質を高め、演技全体を磨く」という方向性は、五輪連覇を果たした羽生結弦(ANA)が最も体現してきた選手だ。コーチのブライアン・オーサーも常日頃から「トータルパッケージ」という言葉を口にしている。師弟は、平昌五輪では冷静に「4回転2種類」という選択肢を選び、演技全体の世界観を大切にする滑りで優勝した。

 その手腕を期待してか平昌五輪後、世界各国のトップ選手がオーサーコーチのもとに集結している。五輪銀メダルのエフゲニア・メドベージェワ(ロシア)、五輪4位の金博洋(中国)、そして演技に定評のあるジェイソン・ブラウン(米国)らが、早々と移籍を決めた。メドベージェワはこれまでも「GOE+3」を連発しており、今後は「GOE+5」の連発を目指すことになるだろう。

 一方で「4回転ルッツは得意でも、GOEで加点を稼げない」というタイプだった金は、オーサーのもとでジャンプの質を磨くことが今後の課題だ。そして演技派のブラウンは、3回転ジャンプの質をより高め、素晴らしいコレオシークエンスを披露することで、才能を開花させていくことになる。

 こうした選手たちに対し、4回転ルッツや4回転フリップなど「超ハイリスク・ハイリターン」の技を持つ宇野昌磨(トヨタ自動車)やネイサン・チェン(米国)は、よりアグレッシブな方向に進むことになる。例えば4回転フリップを最高の質(GOE+5)で降りれば、1本のジャンプで16.50点。「これさえ決まれば、一歩抜けられる」という技を持つことは、選手の心理的にも自信になるし、本番で決まったときの高揚感は演技力へプラスに作用する。守りに入ることなく、大技のアドバンテージをいかに生かすかが、今後の戦略になる。

 そして最後にもう1つ重要なのは、本番で力を発揮するメンタルだ。今まで以上に、本番1発の出来映えが重要になる。ジャンプへの緊張感が高まるなか、自分の心と身体をコントロールできた者が勝利する時代になるだろう。

 いずれにしても、ISUが求めるフィギュアスケートの理想は「難しい技を、きれいに演技する」ということ。最高の演技を求めて、新たな4年がスタートする。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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