「5レーン」「ハーフスペース」とは? 現代サッカーの戦術を分かりやすく解説

西部謙司

ビルドアップにおける5レーン理論

 ハーフスペースの有効性は、言い方を変えるとダイアゴナル(斜め)パスの有効性でもある。斜めのパスには、パスの通しやすさ、受け手の視野の広さ、次の展開への容易さという利点がある。この利点を活用すれば、アタッキング・サードの崩しの局面だけでなく、自陣からのビルドアップもよりスムーズに行うことができる。ハーフスペースの考え方はビルドアップにおいても有効ということだ。

 例えば、CBからサイドバック(SB)へパスを出す。ボールが移動する間にSBは相手からのプレッシャーを受け、同時に次のパスの受け手もマークされてしまえば、前方へのパスの出しどころがなくなってしまう。では、ハーフスペースを活用した場合はどうか。

 ビルドアップにおけるハーフスペース活用の代表例として2つを挙げる。1つはインサイドハーフがハーフスペースで受ける形。もう1つはSBがハーフスペースで受ける形だ。

【図4】 【スポーツナビ】

 インサイドハーフがハーフスペースで受ける形はレアル・マドリーが得意としている。CB(セルヒオ・ラモス)からハーフスペースで斜めのパスを受けるのは左のインサイドハーフ(トニ・クロース)である。CBからSBへのパスに比べるとパスの距離が短く、クロースは斜めのパスを受けることで視野を広く持つことができる。そして、クロースから斜めのパスを受けるためにSB(マルセロ)はポジションを上げ、クロースの右側にはイスコがポジションをとる。この時点で、クロースからマルセロ、イスコの2つのパスコースがあり、どちらかを経由してクリスティアーノ・ロナウドへのコースも開けてくる。ロナウドへ通れば、そこは敵陣のハーフスペースであり攻略ポイントに入れたことになる。(図4)

【図5】 【スポーツナビ】

 SBがハーフスペースに入る形でも位置的にはほぼ同じ。ただし、こちらはサイドへポジションをとるのはSBではなくFWで、より高い位置になることが多い。突破力のあるFWがいれば、ここへパスを入れることでドリブルでの突破が使える。(図5)

 どちらのビルドアップでも、ハーフスペースへの選手の移動に伴って周囲のポジショニングを変化させている。それによって守備側に選択を迫っていることが大きなポイントだ。相手を迷わせ、選択をさせ、それによって生じる位置的な利点、ないし質的な利点を生かしていこうという考え方だ。

 攻撃だけでなく、攻撃から守備への切り替えや守備そのものにおいても5レーンやハーフスペースは活用されている。こうした考え方全般をポジショナル・プレーと呼ぶ。チェスから生まれた用語だそうだ。将棋なら、王手飛車取りのような状況を相手に強いるプレーの仕方になるだろうか。

 ポジショナル・プレー、5レーン、ハーフスペースはいずれも考え方を表したものにすぎない。それらの用語が知られる前から、すでにフィールド上で行われていて、プレーを説明したものだ。しかし、用語と考え方が普及することで、より明確にフィールド上の状況を意識することが可能になるのだ。それは選手の判断を助け、より良いプレーを生み出す助けになる。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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