川田と福永、馬上で交わした言葉 1番人気馬の背中から見たダービー秘話

山本智行

「どうせならユーイチさんに勝ってほしい」

ゴール直後、福永と馬上で交わした言葉とは? 【スポーツナビ】

 ゴール後には感動的なシーンがあった。川田が福永に近づき、馬上で握手。あのとき、2人は何を語ったのか。福永はレース後に「自身は1番人気で負けているのに。なかなかできないこと」と川田のスポーツマンシップにあふれる行動を称賛していた。

「ゴール直後、ユーイチさんに2度ほど声掛けたんですが、興奮状態で、なかなか気づいてくれなくて。“勝ったね、勝ったね”と伝えたんですよ。なぜかタメ口になってましたが。ユーイチさんは“ありがとう”って、もう声にならない感じでした。もちろん、近寄ったのは、あれだけかわいがってもらっている先輩を祝福したかったからです」

 伏線は2年前にあった。

「それもこれもマカヒキで勝ったときにハナ差2着に敗れたクリストフ(ルメール)が手を差し伸べてくれて。こんな状況でも勝者をたたえることができるんだ、と思ったんですよ」

 最後にもう一度レースを振り返ってもらった。コンビを組んだダノンプレミアムはディープインパクト産駒とはいえ、前向きなタイプ。追い切り後の会見では初めて経験する2400メートルの距離に「持つと思うし、持ってもらわないと困る」と語っていたが、実は直線入り口で手応えがあやしくなったという。

「距離には多少不安はありましたが、厩舎は2400メートル戦に向け、うまくつくってくれていたと思います。ペースも早すぎず遅すぎず淡々と流れ、直線は“どこが開くかな”と思いながら乗っていました。エポカドーロの内があいていたので脚があれば、抜け出せた。しかし、こっちは4角で付いていくのが精いっぱいに。周りの騎手にはアクションは見せず、悟られないように乗っていましたが」

 残り200メートル。ダノンプレミアムは脚色からももはや圏外。そこへ外から福永のワグネリアンが脚を伸ばし、内エポカドーロ、中コズミックフォースと3頭が並ぶ。

「こっちはもう限界なので、どうせならユーイチさんに勝ってほしい。ファンの人には申し訳ないかもしれませんが、必死で追いながら“出ろ、出ろ”と思っていました。さすがに3頭とも伸びる脚はなく、辛抱している感じ。内2頭は最後バテていた。ダノンプレミアムも4角の手応えからすると頑張ってくれたと思いますよ」

 川田にとって今年の日本ダービーは満足こそできないものの、納得のいくレース内容だったようだ。敗因は距離なのか、アクシデント明けの影響なのか。それは今後のレースで明らかにされていくことだろう。

収録中に第2子誕生、福永家に二重の喜び

ダービー制覇と第2子誕生、福永にとっては二重の喜びとなった 【写真:つのだよしお/アフロ】

 収録中には、おめでたいハプニングもあった。19度目の挑戦で悲願を達成した今回の主役、福永は第2子の出産に立ち会うため、収録をパス(産休中と書かれたパネルで出演)していたが、テレビ電話でうれしい報告をした。

「それどころじゃないんです。いま産まれたんですよ。女の子です。さっきまでずっと抱いていました」

  何というタイミング。福永家にとっては、まさに二重の喜びとなった。天才騎手と言われた父・洋一さんのデビューから50年という節目。福永は「ダービー制覇は父の夢でもあったからめちゃくちゃうれしかった。ウイニングランのときはもう精魂尽き果ててました。腹の底から様々な感情がわき上がり、年甲斐もなく泣いてしまった」と打ち明けた。

 再びテレビ電話で呼び出されると「何度も言いますが、それどころじゃないんです」と笑いつつ「父には“勝ったで”と報告しましたよ。すると、ニコニコしてました」と福永家の様子も伝えてくれた。

 参加したすべての人に思い出が残る。それがダービー。来年のダービーでも、きっと熱いドラマが待っているはずだ。
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■MBS毎日放送「戦え!スポーツ内閣」
6月13日(水)24:01〜24:58

【写真提供:毎日放送】

武井壮と小杉竜一のもとに毎週さまざまなアスリートたちが集結し、いまホットなスポーツの話題をアスリートならではの視点で語り、知られざる面白さを伝えるスポーツ・トーク・エンターテインメント番組。

今回のテーマは、「ホースマンの夢 競馬の祭典ダービーの世界」。先日の日本ダービーで、悲願の自身初優勝を果たした福永祐一が電話出演。その時のことやダービージョッキーになった後の周囲の変化を聞くとともに、優勝したそのレースのVTRを観ながらセルフ解説してもらう。また、2年前ダービー制覇した川田将雅と未来のダービージョッキーを夢見る萩野極もゲスト出演する。

<放送局>
MBS毎日放送・TBC東北放送・TUYテレビユー山形・SBC信越放送・RSK山陽放送・NBC長崎放送・TYSテレビ山口(同時刻)
HBC北海道放送(1時間遅れ)

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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