トゥーロンで見えた東京五輪世代の課題 足りないのは勝ち点勘定と駆け引きの妙
「日本人は相手のことを考えてサッカーができない」
昨年のU−20W杯を指揮した内山篤氏は、U−21代表に厳しい言葉を投げかける 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
「日本人は相手のことを考えてサッカーができない。特に若い選手は試合の中で相手のことを察した上での駆け引きをしない」と嘆いたのは、今回のチームで団長を務めた内山篤氏だ。昨年のU−20日本代表を率いていたときも口酸っぱく言っていたところなのだが、「相手が何を狙ってくるのか考えないでサッカーをしてしまう」点は、今大会もあらためて見え隠れした。
「U−20W杯のグループリーグ最終戦でも『相手のイタリアは何を狙ってくると思う?』と選手たちに聞いたときに、『引き分け』と答えられたのは1人だけだった。そもそもレギュレーションを分かっていない選手までいた。日本はすぐに『でも勝ちゃあいいんだろ』になってしまうけれど、相手がいるのがサッカーだし、その心理を読んでやらないといけないもの。引き分けがあるのもサッカー。でも『相手は関係ない』『勝ちゃあいいんだろ』に、どうしてもなってしまう」(内山団長)
トルコ戦は日本がリードして折り返す流れだった。絶対に落とせない初戦でこの流れとなれば、一か八かでトルコが前線からの圧力を強めてくるのは必然の流れではある。「でも、それを感じていない選手がいる」(内山団長)。結果、相手のプレッシャーに負けて自陣での致命的なミスが出る中で失点してしまう。ここから「最低でも引き分け」に頭を切り替えるべきなのだが、混乱も感じられる中での連続失点で、それも水泡に帰した。
より若い世代であれば「それも経験」と総括していいところだが、U−21はもはや大人の年代である。この大会で各国の試合を見ていても、あらためて痛感させられる部分だ。試合運びも、試合の中での駆け引きも、そして「勝ち点」を意識したチームとしての戦い方の部分も、より徹底されたものがある。
玉砕マインドで勝てるほど世界は甘くない
今回のトゥーロンで唯一の勝利となったのが2試合目のポルトガル戦だった 【写真は共同】
もちろん、だからと言って後ろからつないでいくスタイル自体を諦めるべきだという話では全くないが、「相手に応じて」、あるいは「勝ち点の勘定を含めた試合の状況に応じて」戦う柔軟性はより求められるべきだ。日本のビルドアップに対して相手がリスクを負ったプレッシングでくるなら、一度シンプルに裏へ蹴ってしまってもいいわけで、そうした判断を共有できるチームにならないといけないという話でもある。U−21世代と言っても、この世代で上位にいくチームは間違いなくそれができている。親善大会で「勝つための判断」をしっかりやっているチームは、ビッグトーナメントとなればよりシビアに突き詰めてくるのも確実だ。
トゥーロン国際大会に臨んだU−21日本代表の戦いぶりは、ポジティブに語れる要素が大いにあったと思うのだが(内容面で明らかな負け試合はポルトガル戦だけだったのだ)、同時に「このままでは勝てない」という危機感も覚える内容だった。
「勝ちゃあいいんだろ」の玉砕マインドで、ギリギリの攻防になる世界の舞台で成功を収めるのは難しい。手段が目的化してしまい、過程を過剰に重視する日本式判断が先行してしまっても同様だ。かつてはこうした課題の原因として育成年代でトーナメント式の公式戦が槍玉にあがることが多かったが、育成年代のリーグ化が大きく進んだ世代になってもさっぱり改善されていない。いや、むしろ加速した印象すらあることを思えば、問題の本質はそこではない。
「もっと若いときに原因がある」という内山団長の指摘はおそらく正しいのだが、いずれにしても「東京五輪で勝つ」という目標を思えば、避けて通れぬ課題であることも間違いない。サッカーは11人でやるスポーツではなく、相手を合わせて22人の選手で行われるもの。その要素抜きに語れるものでもないし、勝てるものでもない。そして何より、このチームは「勝ちゃあいいんだろ」で勝ち抜けるほど、甘い大会を目標にしているわけでもないのだ。