岡田武史が語る、代表監督に必要な覚悟 「日本人は時として美学が言い訳になる」

飯尾篤史

W杯に向け、戦い方を変えた岡田ジャパン

南アフリカ大会前の壮行試合で、韓国に0−2で敗れた日本。この試合が「サイン」になったという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――南アフリカ大会では、予選を通じてチャレンジしてきたサッカーがあったにも関わらず、主力選手やチームの調子が上向かず、最後に戦い方を変えました。そういうことが起きなかったら、やはりそのままのサッカーを続けたのでしょうか。それとも……。

 半年くらい前かな、このままではW杯に勝てないなと。

――半年前に、すでに考えていたんですか?

 本気でベスト4を目指そうと言って、3つのテーマを与えた。「ボール際で勝つこと」「1人1キロ多く走ること」、それと「中距離パスの精度を上げること」。そのうち2つは上がったんだけれど、中距離パスの精度が全く上がらなくて、このままでは難しいなと。

 自分の信条として、「起こることは必ず必要なことばかり」というのがあって、例えば、試合に負けたら、この敗戦は今の俺に必要なことなんだと。それで、その意味を考える。南アの時もそうで、「このままじゃ勝てないかもしれない」「前からプレッシングを掛けても、もたないかもしれない」という疑いが生じるなかで、どこかでサインが来るはずだと。それを絶対に見逃さないようにしなきゃいけない、とずっと思っていた。

――W杯イヤーに入って、2月の東アジア選手権で3位に終わりました。

 でも、東アジア選手権はサインだと思わなかったんだよ。あの時は、コンディションが整っていなかったし、メンバーもそろっていなかった。そもそもオフ明けにやるべき大会ではないと思っていたから。

 サインだと感じたのは、5月に行われた壮行試合の日韓戦(0−2)でパク・チソンに先制点を決められた瞬間。「え? これが入っちゃうの? たいしたシュートじゃないのに」と思って。ズタズタに崩されたわけでもない。ものすごく悪い内容でもないけれど、これという攻め手もないまま敗れた。これは、「変えろ」というサインだなと。それで、楢崎(正剛)や(中村)俊輔をレギュラーから外して、ガラッと変える決断をした。

――そもそも、このままではW杯で勝てないと感じた半年前というのは、09年9月のガーナ戦(4−3)やオランダ戦(0−3)の辺りですか?

 そうだね、8カ月前だね。オランダ戦、良いゲームだったよ。でも、左サイドの若くて速い選手(エルイェロ・エリア)たった1人にやられてしまった。これでやられるってことは、W杯でも必ず同じことが起きる。日本の方が内容的には良かったんだ。でも、カウンターで、GKと1対1のシーンをさらに2回作られた。これはGKが防いでくれたけれど、入れられていたら、さらにボロ負けのゲームなんだよ、実は。ガーナ戦だって向こうが後半、メンバーを落としてきたから逆転できたけど。

――後半途中まで1−3とリードを許していましたね。

 後半開始早々に中澤(佑二)がクルッと入れ替わられて、やられた。中澤と(田中マルクス)闘莉王を生かすなら、下がってしっかりブロックを作らないと難しいなと思った。でも、まだそこまで悪くない時期に変えると、選手が疑心暗鬼になってしまう。だから、サインが来て、みんなが「もうしょうがない」と納得するタイミングまで待つしかなかったんだ。やっぱり選手って夢を追いたいものだからさ。それで韓国戦が終わったあと、みんなに説明して変えることにしたの。

――ひとつタイミングを誤れば、すべてを失いかねない。チームづくりの難しさですね。

 ギャンブルだよ。このタイミングでどうするか、当たるか外れるかの連続だから。怖いよ、本当に。

日本人監督が結果を残すために必要なことは?

デンマーク戦では攻撃的に戦い、決勝T進出を決めた日本。それでも岡田ジャパンは「守備的だ」と総括された 【写真:ロイター/アフロ】

――日本代表はこの先、W杯優勝を目指していくべきなのか。それとも、ベスト16、ベスト8をコンスタントにキープしていくことを目指すべきなのか、どうお考えですか。

 コンスタントにベスト8とか、ベスト4に入るようにならないと、優勝は絶対にできない。グループステージ敗退か突破かのチームがフロックで優勝することはない。だから、まずはコンスタントにベスト16、ベスト8に入れるようにならないと。そうなって初めて、日本の指導者が世界で認められるようになる。

 選手の場合は、南アフリカ大会でベスト16に入って、「あの日本代表の選手か」ということで認められて、ヨーロッパからオファーが来た。そういう意味で、日本代表の成績というのはすごく大事で、ベスト8に常時入るようになれば、日本の指導者もヨーロッパに引き抜かれるようになって、日本のサッカー自体が成長していく。それによって、優勝するチャンスも来る。選手に続いて指導者も受け入れられるようになったら、それが本当に優勝争いできる時期なんじゃないかな。

――ここまで話していただいたように、岡田さんが2度のW杯で経験されたことを財産として日本サッカー協会で共有していけば、今後、代表監督が代わっても、「強化のモデルケース」として活用していけると思うのですが、難しいのでしょうか?

 日本の社会では難しいと思う。出過ぎるとね、打たれるから。だいたい日本って、前任者否定から入るでしょう。個人的には、いろいろとテストをしていて、それが結果として残って、自然と広がっていったらうれしいけどね。岡田メソッドに関しても、自然と広まってくれれば良いな、と思っていて。10年後なのか、20年後なのか、僕が死んだあとなのかは分からないけれど。今、強引に「俺が」と言って出ていっても、必ず反発する人が出てくるから。

――南アフリカ大会ではカメルーン戦は守備的な戦い方をしましたが、デンマーク戦では非常に攻撃的に戦って結果を出しました。それでも全部ひっくるめて、「守備的だ」と総括され、それを否定するように、ザッケローニに攻撃的なスタイルで戦うことを求めた。それが、重い十字架になってしまったのかもしれません。

 イングランド人なんかは「デンマーク戦はビューティフルだった」とみんな、ほめてくれる。でも日本では「守備的で、カウンターしか攻め手はなかった」と言われてしまうからね。

岡田氏は、世界で結果を残すために必要なのは「腹をくくること」と即答した 【スポーツナビ】

――経験者として意見をうかがいます。日本人監督が代表を率いて、世界で結果を残すために必要なことはなんでしょう?

 腹をくくることだよ。覚悟すること。有名になろうとか、私利私欲を出すと、この仕事は日本では務まらない。僕自身、41歳でやらせてもらったおかげで今があるから、日本人にやらせてみるべきだと思うけど、本当に覚悟を持って取り組まないと、この仕事は簡単にはできない。

(イタリア代表監督などを務めたマルチェロ・)リッピがよく言っていたけれど、「(イングランド代表監督などを務めたファビオ・)カペッロがどれだけイングランド代表の監督として成功しても、自国のナショナルチームを率いることとは全く意味が違う」って(編注:リッピとカペッロは共にイタリア人)。

 自国の代表監督をやるというのは、本当に大変なこと。特に日本では、「同じ日本人のくせして」って思われるから。ただ、出る杭は打たれるけれど、突き抜けたら打たれなくなる。本田(圭佑)なんかはそれぐらい腹をくくっているんだと思うけど、日本人監督もそれぐらい腹をくくって、取り組めるかどうかが大事になってくると思う。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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