菊池雄星、仲間との約束守った復帰戦 圧巻の投球でエース復活をアピール

中島大輔

ほぼ投げ損ないがなかった外角速球

左肩の張りで登録抹消されていた西武・菊池・約1カ月ぶりの復帰登板となった阪神戦でストレートが最速157キロを計測するなど復活をアピールし、6勝目を飾った 【写真は共同】

 左肩の張りで登録抹消されてから26日後の6月1日、埼玉西武の先発・菊池雄星は復帰初戦の阪神戦で序盤から迎えたピンチを無失点でしのぎ、勝ち投手の権利をかけて5回のマウンドに登った。

 捕手の炭谷銀仁朗がジェスチャーで菊池に何かを伝えたのは、先頭打者の6番・中谷将大に1ボール2ストライクから3球続けてファウルにされた直後だ。7球目のサインを出すや、右の前腕を前に振った。多くの場合、腕の振りが弱い投手に対し、「もっと強く振れ」というジェスチャーだ。

 だが、炭谷の意味するものは違った。

「今日、右バッターへの外の真っすぐは全部、吹き上がった感じで空振りやファウルを取れていたから、高めでもいいよという意味でやりました」

 外角に意図したボールは真ん中低めに入り、ライトフェンス直撃の三塁打を打たれたものの、スタメンに8人の右打者を並べた阪神打線に外角ストレートを投げ損ねたのはこの1球のみだった。最速157キロを計測するなど強い威力を誇り、阪神打線は高めのボール球を再三振らされていた。

 菊池は5回無死三塁のピンチを無失点で切り抜けると、6回もスコアボードにゼロを並べて降板する。2番手以降が完封リレーでつなぎ、4月28日以来となる今季6勝目を飾った。

三振は失点ゼロを狙っての結果

「初めて今シーズン、心から喜べる勝ち方だと思います。今までは打線に勝たせてもらっていましたが、やっと今日、今シーズン初めて自分のボールが行ったと思います」

 最多勝&最優秀防御率の二冠に輝いた昨季から飛躍を期待された今シーズン、球団初となる開幕投手5戦5勝と記録上は好スタートを切ったものの、内容はまるで伴わなかった。3月14日、中日とのオープン戦を迎える前に首を寝違えたことで、調整が遅れた影響だった。

 万全とは程遠いコンディションは球威、制球のみならず、心理面にも悪影響を及ぼした。

「離脱する前はどうしても肩をかばいながら、1球1球、『大丈夫かな?』という感じで、対バッターというより対自分と戦っていた部分が多くありました」

 心身の不調を立て直すために登録抹消からの再調整を決断し、約3週間後に迎えた復帰マウンド。注目したかったのは、菊池の“メンタルブロック”がどれくらい外れているかだ。

「地に足がつかない感じが初回からありました」と振り返った立ち上がり、ヒットと四球でいきなり無死一、二塁のピンチを招く。しかし、「丁寧に行くよりも落ち着くまでガンガン腕を振っていった方が、経験上、いいことがあると思って初回から飛ばしました」。

 そうして初回のピンチを無失点で切り抜けると、続く2回の無死二塁では3者連続空振り三振とねじ伏せる。2点リードの5回には再び無死三塁のピンチに立たされたが、3つの空振り三振で切り抜けた。

「(5回は)守備位置を見ても『1点OK』という場面でしたけど、僕の中では0と1では全然価値が違うものだと思っているので、三振を取りにいきました」

 得点圏に走者を背負うと意図的にギアを上げ、三振という狙い通りの結果を収めてみせた。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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