窮地に力を発揮するコート上の紅一点 車いすラグビー倉橋香衣の魅力
日本代表初の女子選手
男性が多いウィルチェアーラグビーの中で奮闘する倉橋。抜てきしたオアーヘッドコーチも期待を寄せる 【写真:松尾/アフロスポーツ】
「ラグビー用の髪型なんです。握力がないので自分では結べないし、髪が落ちてきたら周りが見えなくなるので」
そう話すのは、ウィルチェアー(車いす)ラグビー日本代表の27歳・倉橋香衣。日本代表では初めての女子選手で、5月24日から27日に千葉市で開催された国際大会「2018 ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会」でも女性で唯一選出された。リオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得した日本は、さらなるチームの底上げのため、強豪の米国やカナダで指揮を執ってきたケビン・オアーヘッドコーチが昨年就任。チーム作りの一環として、若手や女子選手を新たに起用するプランを打ち出し、倉橋が抜てきされたのだ。
女子選手が加わるメリットは、“持ち点”にある。ウィルチェアーラグビーの選手には持ち点があり、0.5(1番障がいが重い)から3.5(一番障がいが軽い)まで7段階のクラス分けがされている。試合では、コート上の4人の持ち点の合計が8.0以内になるようにしなければならないが、女子が加わると1人につき0.5が加算される仕組みになっている。つまり、倉橋が入ると合計が8.5以内まで可能となり、より持ち点の高い選手がプレーする機会が生まれる。
倉橋の持ち点は0.5。ポイントの低い選手の主な役割は、相手の道をふさいで味方の攻撃スペースを作る守備にある。まだ競技歴2年の倉橋は170センチ・51キロと細身の体のため、パワーをつけるためにチューブトレーニングと食事量を増やしている最中だ。ジャパンパラ大会でも果敢に相手チームにタックルを仕掛けていた倉橋。「体の大きい男子選手に向かっていくのは怖くない。むしろ楽しいです」と笑顔だった。
苦しい試合で勇気を与える笑顔
相手選手の進路をふさごうとする倉橋(左) 【写真:松尾/アフロスポーツ】
倉橋には好きな漢字がある。「楽」という字だ。気楽にいこうよ、何とかなるよ、という気持ちになるからだ。頸髄損傷の障がいを負った時にも、不思議と葛藤はなかった。大学3年の春、出場したトランポリンの大会の公式練習中に、首から落ちた。体に走ったのは、痛いよりも、苦しい感覚。頭をよぎったのは、「やってしまった。お母さんに怒られるかもしれない」という気持ちだった。「自分よりも周りの方が心配していました。もちろん、支度に時間がかかったりするときは、凹むことはあります。めんどくさいこともあるけど、誰だって得意不得意はあるし、“何とかなる”でやっています」と話す。
日本代表で唯一の女子である倉橋は、たびたびメディアから注目を浴びる。しかし、女子選手としてよりも、1人の選手として認められたいという。
「悔しいですね。もともと混合競技だし、国内には女子選手は少ないながらもいるので。私自身がまだ他の代表選手に追いついていないのに、女性という理由だけで取り上げられるのは悔しいです」
まだスピード面などで男子に劣る面があり、オアーヘッドコーチも「他の0.5の男子選手と同じようにプレーすることで、女子が入ることが生きてくる」とコメントしている。倉橋自身、紅一点であることは意識したことがない。あるとすれば、チームメートの練習着の汗の匂いがすごいと思うとき、だそうだ。でも、「世の中の女性たちに刺激を与えられるとすれば、自分が取り上げられる意味はあるし、勇気を与えられるような人になれたらいいな」と、男性ばかりの中で戦う姿について見解を示していた。
東京パラ金の鍵を握る
倉橋について、オアーヘッドコーチが「まだまだ発展途上だが、チームになくてはならない存在」と期待を寄せれば、キャプテンの池透暢は「彼女が入ってチームが大きく変わった」と評価する。倉橋自身も2年後について、「何とかなる、で生きていますけど、金メダルだけは何が何でも取る。あと、今後の目標は……友達の結婚ブームに乗っかって、私も結婚したいな」。
2020年の金メダリストへ。コートに笑顔を咲かせ続ける倉橋の、夢への挑戦は続きそうだ。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ