すでに4勝、榎田大樹が西武で復活 「自分の形ができあがりつつある」

週刊ベースボールONLINE

味方打線は強力。我慢強く投げられれば

 5月30日現在、7試合に登板して、4勝1敗、防御率2.33。先発した6試合中、5試合でクオリティースタート(QS)も達成しているなど、抜群の安定感を誇っている。辻発彦監督も「投球術に優れている。クイックも、守備も巧み。テンポも素晴らしい」と試合を壊さないピッチングを称賛。背番号30はすでにチームに欠かせない存在となっている。

辻発彦監督もテンポの良い投球で試合を壊さない榎田のピッチングを称賛している 【写真:BBM】

 テンポの良さに関して、よく聞かれるのですが、基本的には自分が投げたいように投げているだけです。自分のタイミングでポンポンと投げるのが、自分のリズムというか、投球スタイルです。それが、いまはたまたまうまくハマっているんだと思いますね。

 ただ、それが悪い方向に出ることもある。特にパは積極的にバットを振ってくるチームが多いですから。ストライク先行でテンポ良く投げると、狙い打たれる場面も増えてくるはずです。そういうときはタイミングを変えないといけません。だから、場合によっては間をとる場面も出てくるでしょう。いろいろと考えないと、僕は抑えられないピッチャーですから。

 西武で初めての1軍マウンド(4月12日、千葉ロッテ戦)は、昨年の1軍初登板のような切羽詰まった状態ではなかったですよ。自分の思うようなピッチングの形ができつつあり、「これで勝負したい」という心境でしたから。自らのミスもあって初回に2点を奪われましたが、焦ることもありませんでした。考えていたのは粘り強く投げることだけ。もしかしたら昨年までの僕だったら、あそこで粘り切れなかった可能性が高かったかもしれません。

 とにかく、僕は打者を圧倒するようなすごいボールを投げられるわけではない。それに、絶対に1試合何回かピンチは訪れる。だから、僕にとってはいかに我慢強く投げるかが重要。それが勝敗を左右すると考えています。

 人間だから失敗もします。ただ、それを繰り返してはダメ。四球や死球、暴投もあるでしょうけど、その同じ過ちを何度も犯してしまっては失点が3、4点と増えていってしまう。そういったときに我慢強く投げることで、失点が1、2点で抑えられる。味方打線は強力ですから。我慢強く投げていれば、おのずと勝利が転がり込んでくるはずです。

古巣・阪神戦は「不安と楽しみ」

 楽しいときが3割で、つらいときは7割――。人生はいいこと、悪いことが五分五分ではないと思っているという。うまくいかないことも、それが普通だと受け入れて、ひたすらに前へ進む。

 1年目、球団新人記録を更新する62試合に登板と華々しいデビューを飾ったが、2年目に手術、そこからの野球人生は下降線をたどった。だが、「好きな野球で苦しめる自分は幸せ」――。そう断言できる強さが榎田にはある。


 手術をして結果が出ないときに、いろいろと人から話を聞いて。それで、「人生は楽しいときが3割で、つらいときが7割」と思うようになりました。結局、野球でも、例えば先発なら週1回の登板のために、週6日、必死になって準備する。マウンドに上がらない時間の中で、ラクをせずに、どれだけ頑張れるかが大切になってきます。そこで努力を怠らなければ、試合でいい結果が出るはずです。そう考えると、つらいときのほうが多いでしょう。

 でも、社会人では先発だった僕が阪神1年目から中継ぎを経験。そのときの経験は、間違いなく先発をやっているいまに生きています。イニングの途中で中継ぎが登板する難しさを分かっているので、なるべく回は投げ切りたい。いかに中継ぎに負担をかけないか、ということは常に思っています。

 そういえば、このまま日曜日の先発となれば、交流戦で阪神戦(6月3日)に登板することになるんですよね。もし、実現したら……。知られている部分があるので投げづらいし、不安はある。でも、仲間だった人と対戦するのは楽しみ。相反する感情がありますね(笑)。

 郷土・鹿児島県曽於郡大崎町の先輩である福留(孝介)さんとは、チームメートになるとも思っていなかったですし、まさか対戦もできるとは。もし、投げたら抑えたいですね。

 いまはうまくいっていますが、大事なのはこれからになります。1年通して活躍するのが本当のプロ野球選手。いまだけで終わってしまったら意味がありません。まずは、目の前の試合を大切に。1試合、1試合、全力を尽くしていきたい。それが積み重なって1年間、トータルの結果として出ればと思います。


 榎田には3歳と1歳の娘がいるが、長女は移籍したことを理解している。だが今年、家族3人がたまたま甲子園に観戦に行った際、長女が母親に「パパは投げないの?」と無邪気に問いかけたという。まさにかわいい盛りだ。「僕が先発した4月30日の楽天戦もテレビで見ていたらしいんですけど、僕は死球を当てて交代して。そしたら長女が『パパが代わっちゃった』と号泣したらしいんです(笑)。そういうのを聞くと、うれしいですね」

 いまはまだ関西に暮らす家族も、もうすぐ関東にやってくる。榎田の投球も、ますます冴(さ)え渡るだろう。


(取材・構成=小林光男 写真=大泉謙也、大賀章好)

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント