西岡良仁、全仏OPで流した悔し涙の対価 元世界7位との激闘で得た価値ある大歓声
クレー巧者のベルダスコを追い詰めるが……
元世界7位のベルダスコを追い詰めるが、試合終盤で足を痙攣(けいれん)。最後は満身創痍の戦いとなった 【Getty Images】
両者赤土を跳ね上げて駆け回り、2セットずつを分け合う激闘が第5セットに突入した時、試合開始からすでに3時間半が経過していた。
客席から人があふれ、フェンスを幾重にも囲むファンの多くの当初のお目当ては、元世界7位のベルダスコだったろう。だが、170センチの小柄な体で激しく走り、繊細にラケットを操る西岡のテニスが、確実にベルダスコから声援を奪っていく。それらの声にも後押しされるように、ファイナルセットは西岡が4−1と大きくリード。勝利まで、あと8ポイントと迫った。
だが……この時西岡の右太ももを、激しい痛みが駆け上がる。そこをかばいながら動くと、今度は反対の足へと痙攣(けいれん)は広がった。ボールを打ち着地するたびに、もんどり打つように体勢を崩ししゃがみ込む。それでも彼は、術後に手を柵に打ち付けていた時のように、言うことを聞かぬ足をラケットでたたきながら、足を引きずりボールを追った。左右に走ることはできないため、一発のリターンと前に出てのネットプレーに活路を求める。
追いつかれながらもブレークし、勝利まであと2ポイントまで迫りもした。だが後に本人が「最後のチャンスだった」と振り返る局面で得意のバックをネットに掛けた時、勝機は手の届かぬところへと遠ざかる……。
激闘にベルダスコ「どちらの選手も勝利に値する」
試合後はベルダスコ(左)が歩み寄り、西岡の健闘を称えるように肩を抱いた 【Getty Images】
「僕もキャリアのなかで、多くのファイナルセットを戦い勝者にも敗者にもなってきた。長い5セットマッチで死力を尽くして戦った時、結果にかかわらずどちらの選手も勝利に値するんだ」
ベルダスコは西岡に払った最大の敬意のわけを、そう語った。
試合後、ロッカールームで悔し涙に暮れる西岡に、コーチでもある兄・靖雄は「勝利よりも大きなものを、この試合でつかんだよ」と声を掛けたという。
「試合終盤は、僕への声援の方が大きかったと思います。いろいろな国の方々……日本の方はもちろんですが、スペインやフランスや…‥そういう方々の気持ちを、自分の応援に向けられたことがうれしくて」
試合から約1時間後の会見では、西岡本人も時折笑みをこぼしながら、振り返った。
戦前に「一番欲しい」と言っていたランキングポイントは、望んだ数を得ることはできなかった。だが、コートを埋め尽くしたスタンディングオベーションと「ヨシ」コールは、彼が得たものが……そして見る者に与えたものが、数字では測れない価値を帯びていたことを物語っていた。