98年W杯、秋田豊が痛感した世界との差 「選手たちが同じ方向を向けるかどうか」

飯尾篤史

スーケルが見せた「ボールのないところでの駆け引き」

スーケルもまた一瞬のスキを突いてマークを外し、決勝点を挙げた 【写真:Action Images/アフロ】

 反対に、クロアチアは後半に迎えたチャンスをしっかりとモノにしたのだ。

「あの日はものすごく暑くて、クロアチアの動きは悪かった。俺らはアルゼンチン戦で手応えをつかんでいたし、絶対に勝とうという気持ちで臨んでいて、実際に押し気味に進めていたんだけど……」

 均衡が崩れたのは、後半32分だった。名波のパスを中田がワンタッチで落としたところをアリョーサ・アサノビッチに奪われる。アサノビッチのスルーパスは井原がスライディングで防いだが、こぼれたボールを再びアサノビッチに拾われた。

 このとき、秋田もスルーパスに反応していたため、アサノビッチに寄せられず、放り込まれたクロスがファーサイドに抜けていく。

 そこに、スーケルがフリーで待っていた。

「クロアチアはショートカウンターがすごくうまいチームだから、取られ方が悪いと、どうしても後手を踏んでしまう。ただ、この場面はね……」

 なぜ、最も警戒すべきスーケルをフリーにしてしまったのか。実は、アサノビッチがこぼれ球を拾い、日本の守備陣がクロスに備えたとき、スーケルは自身をマークする中西永輔に身体をぶつけて転倒させ、その間にファーサイドに逃げていたのだ。

「ワールドクラスのストライカーは、ボールのないところでの駆け引きをすごく仕掛けてくる。それは、すごく勉強になった」

 結局、このゴールが決勝点となり、日本は2試合続けて0−1で敗戦。1試合を残してグループステージ敗退が決まった。

 同じく2連敗のジャマイカと、W杯初勝利を懸けて戦った第3戦は、2点を先行され、後半29分に中山のゴールで一矢報いたが、1−2で敗れ、初めてのW杯は3戦全敗で幕を閉じた。

「グループステージ突破を目標にしていて、それが2戦目で潰えてしまったから、やっぱりジャマイカ戦は気持ち的に難しかった。バティやスーケルといった世界的なストライカーと戦って疲労が蓄積していたし、彼らをマークするのと同じくらいのモチベーション、集中力で臨めたかというと、そうじゃなかったと思う。そういう意味でも、W杯を戦うには、まだまだ力不足だった」

「ベテラン枠」で招集され、中山と話し合った日韓大会

02年大会の秋田(右)は出場機会が限られるなか、中山とともにチームを盛り上げた 【写真:ロイター/アフロ】

 なぜ、1試合も勝てなかったのか、なぜ、ジャマイカ戦もそれまでと同じテンションで戦えなかったのか。その無念を晴らすチャンスが4年後、秋田にめぐってくる。

 W杯・日韓大会の代表メンバーに最後の最後で滑り込んだのだ。のちに「ベテラン枠」と呼ばれることになるサプライズ選出だったが、選出された秋田はもちろん、2度目のW杯のピッチに立つ気満々だった。

「メンバー発表のとき、フィリップ(・トルシエ)が『秋田はベルギーの高さ対策で呼んだ』と言ったんだ。ところが、ベルギー戦で(森岡)隆三が負傷したとき、呼ばれたのは俺じゃなくてツネ(宮本恒靖)だった。俺、出られねえじゃないか、ってショックだったよ」

 そのショックから立ち直るために、ベルギー戦を終えてから翌日の練習が始まるまでにじっくり考えたという。自分と向き合い、気持ちをコントロールし、やがて吹っ切った。

「やっぱり無駄な時間は過ごしたくないし、チームとして最大のパフォーマンスを出すためには、ファミリーのような一体感を出すことが大事だなってあらためて思った。それでベルギー戦の翌日、ゴンちゃん(中山)と話したんだ」

 Jリーグでしのぎを削り合うライバルである中山も秋田と同様、出場機会が極めて少ないと考えられていた。

「もともと2人とも高いモチベーションでやっていたんだけど、ここで落とすことなく、さらに盛り上げていきましょう、俺たち2人が引っ張っていきましょうって。俺らがやれば、若い選手たちもやらざるを得ない。そんな状況を作ったんだ」

 そのとき参考になったのは、フランス大会だったという。自身の経験ではなく、試合に出られなかった選手の姿、である。

「フランス大会では自分は試合に出させてもらっていたから、サブの経験はないわけ。自分がその立場になったら、やっぱりストレスが溜まるんだけど、フランスのとき、(試合に出られなかったGKの)小島(伸幸)さんはどう振る舞っていたかな、って思い返したりもした」

 こうした秋田や中山らベテランの支えもあって、日韓大会で日本代表は初めて勝点を挙げたばかりか、初勝利も飾って決勝トーナメント進出を果たすのだ。

「一枚岩になれていないチームは勝てない」

秋田はW杯に向けて「一枚岩になれていないチームは勝てない」と語る 【スポーツナビ】

 W杯ロシア大会に向けて秋田が強調するのも「チームが一丸となることの大切さ」である。

「選手たちが同じ方向を向けるかどうか。日本代表ともなれば、選手それぞれに確固たるサッカー観があるし、誰もが試合に出たいわけ。それは当然なんだけど、どんなに良い選手がいても、良い監督がいても、一枚岩になれていないチームは勝てない。逆に、一体感が生まれれば、23人のパワーが30にも40にもなる。鹿島はそれができるから強いんだよ。メンバーも、力量も違うのに、なんでいつの時代も鹿島が優勝できるかというと、勝つという目標から逆算して、このメンバーで勝つためにどうするか、このチームが勝つために自分は何をすべきかをみんなが考えている。日本代表もそういう集団になってほしい」

 秋田の指摘は、チームが勝つための真理だろう。実際、過去の日本代表の成績を見ても一枚岩になれるかどうかが、戦術うんぬん以上に大きな意味を持っていた。とりわけ今回は、開幕の2カ月前に監督が代わるという特殊なケース。選手たちをどうまとめ、戦う集団に仕上げていくのか。西野朗監督のチームマネジメントに注目したい。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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