シンクロ改めAS、代表選考改革の理由 井村コーチが目指す選手の“大型化”

沢田聡子

東京五輪を見据え、選考方法を変更

東京五輪を見据えて、代表選考を抜本的に改革した日本チーム。井村雅代ヘッドコーチの推薦により、メンバーが決められる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 井村雅代ヘッドコーチの下、2016年のリオデジャネイロ五輪でデュエットが2大会ぶり、チームでは3大会ぶりのメダル(いずれも銅)を獲得し、復活を印象づけた日本のアーティスティックスイミング(AS/この4月より、シンクロナイズドスイミングから名称変更)。20年の東京五輪では、銀メダル以上の成績を目指している。しかし昨夏の世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)では多くの種目でライバルのウクライナに競り負け、メダルはチームのテクニカルルーティン、非五輪種目のフリーコンビネーション(強豪ロシアは出場せず。中国が優勝、ウクライナが銀メダル)で獲得した銅2つに終わった。

 井村コーチは、その結果を予想していたという。リオ五輪が終わった時、既にその先を見据えていた井村コーチは、さらに上を狙うために日本に必要なものは「大きさ」だと感じていた。小柄な選手が確かな技術を持っているのに比べ、大きな選手は「自分の手足を持て余す」のだと井村コーチは話す。そのため、選考会で上位になるのは小柄な選手が多い傾向があるというのだ。しかし、世界的には大型化が進んでおり、体格面のハンデが高さの足りない演技や結果に表れていた。

 そこで大型の選手に基礎を身につけさせるには代表に選ぶのが一番いい方法だと考えた井村コーチは、リオ五輪後まもなく18年の選考方法についてシンクロ委員会に提案。当時すぐに選考方法が変わることはなかったものの、昨年の世界選手権の結果を受け、シンクロ委員会は日本代表の選考方法を抜本的に改革した。選考会の成績による従来の方法から、コーチの推薦による方法に変更したのだ。

「下手な子を上手にするのが仕事」

「下手な子を上手にするのが私の仕事」と語る井村コーチ。技術面で課題がある大型選手をどこまで鍛え上げることができるか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 日本のエース・乾友紀子は「選考会がないということは、練習や合宿で常に選考されている状況になる」と語る。

「その危機感というか、そこで生き残っていく力みたいなものが、今までとは違うなと思う。正式な選考会で点数が出ているわけじゃないんですけど、このメンバーが選ばれてよかったと思ってもらえるような演技をしなければいけない、と感じています」

 選手の体そのものも大切な要素である採点競技においては、新体操の日本代表でも、実績より身体能力を重視して選抜する方法に変更した例があり、結果に結びついてきている。ただ、体そのものを重視して選手を選んだ場合、技術を身につけさせるには時間がかかる。井村コーチも「動き出したけど、きついですよ。下手を集めているもので」と吐露する。

「だけど(東京五輪の)20年までの期間を見たときに、泳ぎやすい子を集めるのではなく、私は私で本来の自分の仕事を思い出そうと。下手な子を上手にするのが私の仕事だから。早くまとめるよりも、2020年に上手になった子を見せようと。そういうふうに覚悟したんです」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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