「エジプトのメッシ」サラー、覚醒の理由 ゴール量産の大活躍にバロンドールの声も
リバプールのプレースタイルに完璧にフィット
フィニッシュワークに磨きをかけていることもサラーのゴール量産の理由の1つ 【写真:ロイター/アフロ】
一つ目の理由は、サラーの特性がリバプールのプレースタイルに完璧にフィットしたことにある。クロップ監督が標ぼうするのは「ゲーゲンプレス」、つまり、ポゼッションを失ったところからボールを素早く刈り取り、瞬時に攻撃へつなげるサッカースタイルだ。高い位置でボールを奪い、相手の陣形が整っていないうちに敵の守備網を崩すスタイルで、サラーのスピードと決定力がいっそう生かされているのだ。
サラーが務めるのは4−3−3の右FW。例えば、ボールを奪ってショートカウンターを発動すれば、スピード抜群のサラーと左FWのサディオ・マネが相手DFラインの背後へ駆け抜ける。守備網にできたギャップに侵入してラストパスを呼び込み、一気にゴールチャンスにつなげている。
また、センターFWの位置に入るロベルト・フィルミーノの存在も大きい。ブラジル代表FWはゴール前にとどまらず、「偽9番」としてピッチを幅広く動いてパスを受ける。あるときは、タッチライン際のワイドエリアへ、またあるときは降下して中盤に──。ボールを受ければ、パスセンスと広い視野を生かし、前線へ走るサラーやマネにラストパスを送るのだ。
ここでポイントになるのが流動性である。フィルミーノがワイドエリアに流れたら、代わりにサラーがダイアゴナルランで中央部へ突入する。第19節のアーセナル戦(17年12月22日、3−3)での2点目、サイドに流れたフィルミーノがアーセナルのセンターバックを釣り出すと、チャンスと見たサラーは快足を飛ばして中央部のスペースに突進。そのままネットを揺らした。
こうした流動性の高いアタックの中でも、サラーの驚異的なスピードと巧みなフリーラン、高い決定力がゴールにつながっているのである。
二つ目の理由は、サラー自身がフィニッシュワークに磨きをかけていること。
ローマ在籍時代の2015−16シーズンは、セリエAで14ゴールをマーク。翌16−17シーズンは15ゴールを挙げた。迎えた今シーズン、プレミアリーグでここまで31ゴールまで得点数を伸ばしているのは、やはりサラーの成長があったからに他ならない。バリエーションやシュートの精度は、今やワールドクラスの域に突入している。
ペナルティーエリア内に入ると、とにかくサラーは嫌らしい動きをする。GKやマーカーの間合いを外し、急所を突くように一撃を食らわす。あるいは、敵にコースをブロックされたら、逆方向へ鋭くターン。密集地帯でも小刻みにボールをタッチし、わずかな隙間からでもゴールを狙う──。
いずれも動きは俊敏で、左足のシュート精度は極めて高い。GKやマーカーが体勢を崩した一瞬のスキを見逃さず、瞬時にシュートを打ってくるのだから、守備陣にとってこれほど厄介な相手はいないだろう。
計り知れないクロップ監督の貢献
リバプールはクラブ史上6度目となる欧州制覇なるか 【写真:ロイター/アフロ】
ローマとのCL準決勝・第1戦で、サラーはペナルティーエリア内の角から逆サイドのネットを揺らすという難易度の高いゴールを決めた。「今季ベストゴール」の呼び声も高い得点に、クロップ監督は「天才だからこそ、なせる技」と褒めちぎった。
15年10月の就任以来、熱血教師のように温かいまなざしを向ける50歳のドイツ人指揮官は、リバプールの選手たちを飛躍的に成長させてきた。例えば、それまで準レギュラー扱いだったフィルミーノの特性を見抜き、「偽9番」として才能を大きく伸ばした。また、アーセナルから移籍してきたアレックス・オックスレイド=チェンバレンも、リバプール加入を機に復活。インサイドMFとして新境地を開き、ドリブル突破やミドルシュートで存在感を放つ。19歳の若き右サイドバック、トレント・アレクサンダー=アーノルドも、大舞台で臆することなく持ち味を発揮している。
「モーは大きな自信を持って試合に臨んでいる」と、クロップ監督はサラーを褒める。しかし、選手に全幅の信頼を寄せる指揮官が精神面で支えているからこそ、まな弟子たちは前だけを見据え、成長を続けているのだろう。クロップの貢献もまた計り知れない。
そのクロップ率いるリバプールは、5月2日にCL決勝進出を懸けてローマと準決勝・第2戦を戦う。在任3シーズン目にして、クロップはリバプールをCL決勝へ導けるか。そして、「エジプトのメッシ」、あるいは「リバプールのファラオ」とまで呼ばれるようになったサラーは、古巣相手に再びネットを揺らせるのか。
無論、彼らが目指すのはクラブ史上6度目となる欧州制覇だ。サラーを中心に上昇気流に乗るリバプール一行は、欧州の頂点に立ってやろうという気概に満ちている。