男子ダブルスで急成長のマクラクラン勉
日本人としてプレーし「全てが変わった」

ニュージーランドで始まったキャリア

ダブルス世界ランキング27位につけるマクラクラン勉(左)。ダブルスの世界でトップへの道を歩みはじめている
ダブルス世界ランキング27位につけるマクラクラン勉(左)。ダブルスの世界でトップへの道を歩みはじめている【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 幾つかの出会いと選択を重ねて隘路(あいろ)を歩んできた旅人が、やがては強固なレールを走る列車に飛び乗り、急加速の冒険が始まる――マクラクラン勉(ベン)というテニスプレーヤーのキャリアを振り返った時、そのような情景がふと浮かぶ。


「テニスは、ニュージーランドではあまり人気のないスポーツです」

 南半球に浮かぶ島国の町で育ったマクラクランは、「子供の頃から兄と一緒に、空手やラグビーなどいろいろなスポーツをやりました」と幼少期を回想する。


 空手の有段者でもあるニュージーランド人の父親と、ツアー会社で働く日本人の母親の間に生まれたマクラクランは、1歳年長の兄のリキとともに、幼い頃から多くのスポーツになじんできた。その中から「あまり人気のないスポーツ」を選んだのは、通っていた地元のテニスクラブに、元トッププロのラン・ベールがコーチとして招かれたためである。南アフリカ人のベールは世界ランキング27位に達したダブルスの名手であり、プロキャリアを終えた後は、米国の名門カリフォルニア大学でコーチとして手腕を振るった経歴を持つ。


「こんなに素晴らしいコーチがいるのだから、真剣にテニスをやってみよう!」


 その時からマクラクラン兄弟にとり、テニスは、最優先に打ち込むべきスポーツになる。弟が10歳、兄が11歳の頃であった。

トップコーチとの出会いで築かれた土台

元トッププレーヤーだったコーチとの出会いが、テニスとの距離を近づけた
元トッププレーヤーだったコーチとの出会いが、テニスとの距離を近づけた【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「ベールコーチが来てからは、特にサーブは他の子たちよりもたくさん練習したと思います。あとは、前に出てボレーを決める練習もいつもやっていました」と、兄のリキは弟の練習風景を思い返す。体をしならせ無理のないフォームで放つ高速サーブと、硬軟自在のネットプレーを誇るマクラクランのプレースタイルは、この少年時代に築かれたものだった。

 だが「国内でトップのジュニアになってもニュージーランドでは協会の援助も得られませんし、日本の子供たちのように海外に遠征に行ったりはできませんでした」と兄は説明する。

 練習やトレーニング時間も多く取れるとは言い難い。何より国内での試合が少ないので、実戦経験を積むことができない。高校進学を控え、自分たちの将来を考え始めた頃には「プロになるのは難しいだろう」とも思っていた。


 だが二人は「コーチとも話をして、まずは米国の大学に行くことを目標にした」と言う。その進路を決める際には、ベールの人脈が大きな助けとなった。彼がかつてコーチをしていたカリフォルニア大学にまずは兄が進学し、弟もその轍(てつ)に続く。ニュージーランドの地元クラブで歩み始めた細い道は、海を渡り、まずは北米の西海岸へと至った。

兄との二人三脚 歩み出したプロへの道

「もしベンが18歳でプロツアーに入っていたら、きっと2年くらいでやめていたと思います」


 現在はコーチとして弟に帯同するリキは、ありえた“もし”の道に思いを致す。


「あの頃のベンは、まだ精神的に成熟していなかった。体も細かったし……メンタルとフィジカルの両方が足りていなかったと思います」


 その細身の弟は、大学の設備と優れたスタッフに囲まれる環境を得て、日に日に力をつけていった。一見すると物静かだが、実は人なつっこく華やかな舞台が好きなマクラクラン家の次男には、団体戦のにぎやかな水が肌にもあう。兄と組んだダブルスでは、全米大学ダブルスランキングのトップ10にも食い込んだ。


「この頃には、ベンはプロでやっていけると信じていました」


 優しい笑みを浮かべる兄は、「僕は膝をケガしたこともあり、プロでやっていくのは難しいと感じていました」と当時を振り返る。それでもスポーツの世界で生きる道を志した彼は、卒業後は大学院へと進み、指導者になるべくスポーツ・マネージメントを学ぶ。そして2年後……弟はプロ転向を決意し、兄はコーチとして弟を助けることを選ぶ。プロの世界で上を目指す、兄弟の二人三脚の旅が始まった。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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