コロンビアの10番はヒラメキの怪物 ハメスがピッチで見ている「すげえもの」

西部謙司

コロンビア代表が誇るクールな“ジェームズ・ボンド”

ロシアW杯でもハメス・ロドリゲスは間違いなくコロンビア代表のキーマンだ 【Getty Images】

 アルゼンチンのバンフィエルドでプレーしていた頃、ある試合でゴールを決めて「バンフィエルドのジェームズ・ボンド」と呼ばれた。ハメスのスペルは「JAMES」なので、英語読みすればジェームズになる。それに「BOND」とチーム名の「BANFIELD」をかけて「JAMES BONDFIELD」という単なるダジャレだ。ただ、この試合で決めたGKのタイミングを外すチップキックのゴールは、当時18歳という年齢に似合わぬ冷静さで、それこそ『007』のようにクールだった。

 童顔なので大きな選手というイメージはないが、身長は180cmある。利き足は左。プレーぶりは典型的な背番号10である。ゲームを作り、決定的なパスを出し、自らも得点する。4年前のワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本戦では、途中出場から吉田麻也を翻弄して1ゴールを決めている。

 コロンビアには伝説的な名手カルロス・バルデラマがいた。1990年代に活躍したMFだが、ハメス・ロドリゲスはバルデラマの後継者といわれている。実際には利き足も違うし、プレースタイルもあまり似ていない。バルデラマはほぼショートパス専門の特異なプレーメーカーで、持ち前のミリメーターパスと、ライオンのたてがみのような髪型で知られていた。一方のハメスはレフティーで長短のパスを駆使し、バルデラマよりもよく走るし、点も取れる、より現代的な10番だ。ただ、卓越したボールタッチとインスピレーションは、2人に共通する部分。個性こそ違うが、スタイリッシュなプレーぶりも似ているかもしれない。

ピッチで「すげえもの」が見えるとき

ハメスが長らく比較されてきたコロンビア代表の「元英雄」バルデラマ氏 【Getty Images】

 ところで、敵の意表を突くインスピレーションはどこから生まれるのだろう。イタリアの名将ファビオ・カペッロは「現代サッカーにファンタジスタの居場所はない」と話していた。「ヒラメキや創造性とは、言葉を換えれば意外性にすぎない」などと、かなり身もふたもない言い方もしている。しかし、カペッロの言う「意外性」がゲームの中で違いを作り出し、それが決定的なゴールにつながることも少なくない。

 では、人と違うことを考える、誰も予測しないプレーを繰り出す、それができる選手は単なる変わり者なのだろうか。確かにバルデラマは見た目からして変わっていた。けれどもハメスは好青年風である。その言動にも、とくに変わった感じはしない。意外性は性格の問題ではないらしい。

「たまに、ふと見たら、すげえものが見えちゃうこともあります」

 これは日本が誇るクリエイター、中村憲剛(川崎フロンターレ)の言葉だ。それが針穴を通すようなスルーパスになったりするわけだ。ただ、彼はそれを意図して作ってはいない。たまたま「すげえもの」がそこにあったと言っているのだ。キーワードは「すげえもの」よりも「見えちゃう」の方にある。おそらく中村憲剛やハメス・ロドリゲスでなければ、そもそもそれが「すげえもの」だとは気付かない。実は「見えちゃった」のではなく、意識せずに「見抜いて」いるのだ。

 単に「見る」のではなく「見抜く」。女性の肖像画を描いているのに、パブロ・ピカソの絵がああなってしまうようなものかもしれない。同じものが違うふうに見えるのは、見ているものから取り込む情報量が、クリエイターと普通の人とでは違うからだ。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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