メキシコに欠かせないロンドン五輪世代 ベラとドス・サントスの波瀾万丈な経歴

池田敏明

ジオバニも期限付き移籍の連続

ジオバニはその風貌から“ロナウジーニョの後継者”と称された 【写真:アフロスポーツ】

 ジオバニのキャリアも同じく苦難の連続だった。05年のU−17世界選手権の時、彼はバルセロナの下部組織に所属していることが話題になった。風貌が少し似ていたことから“ロナウジーニョの後継者”とも称され、当時はリオネル・メッシよりも注目される存在だったと記憶している。

 しかし、バルセロナも下部組織の選手がトップチームで活躍するのが非常に難しいクラブだ。ジオバニも07年にトップ昇格を果たしたものの、在籍はわずか1シーズンだけで、トッテナムに完全移籍する。だが、新天地では全くと言っていいほど出場機会を与えられず、イプスウィッチ、ガラタサライ、ラシン・サンタンデールと期限付き移籍を繰り返す。その後、マジョルカやビジャレアルで主力として活躍したが、15年7月にはLAギャラクシーに移籍してしまう。わずか26歳の若さで欧州の主要リーグを外れ、MLSに移籍したことで、当初はキャリアの停滞を懸念する声もあった。

 ただ、代表ではベラ以上に、重要度の高い選手であり続けている。W杯は10年の南アフリカ大会、14年ブラジル大会と2大会連続で出場し、ロンドン五輪ではエースとして金メダル獲得に貢献している。今予選では5試合に出場して無得点と低調な成績に終わったが、キャップ数は100を超えており、大舞台での経験値や勝負強さは群を抜いている。ほとんどの試合で10番を背負ってプレーしていることが、彼の重要度の高さを物語っていると言えるだろう。3月の親善試合はクラブでの試合中にけがをしたことが原因で招集外となってしまったが、LAギャラクシーのチームメートでもある実弟ジョナタン・ドス・サントスとそろってメンバー入りする可能性もある。

変幻自在のパスワークに、2人は不可欠

ジオバニ(左)の大舞台での経験値や勝負強さはチーム内でも群を抜いている 【Getty Images】

 ベラが北中米カリブ海地区予選16試合中10試合、ジオバニが5試合と、両者ともに予選での試合出場数はやや少ない印象を受けるが、これはメキシコを率いるフアン・カルロス・オソーリオ監督がメンバーと布陣を固定せずに戦っていることと無関係ではない。前述したとおり、今のメキシコは試合ごとにメンバーが変わり、その顔触れによって布陣も変わる。W杯のメンバー23人を選べば、グループリーグ3試合で全員が出場機会を得てもおかしくないほど、選手を固定せずに戦っているのだ。

 ベラは両サイドや2トップの一角、ジオバニは右サイドやトップ下、セカンドトップとしてプレーできるので、汎用性は非常に高い。ハビエル・エルナンデス、イルビング・ロサーノとベラやジオバニを組ませ、流動性の高い3トップを形成してもいいし、長身のオリベ・ペラルタ、ラウール・ヒメネスが2トップを組み、サイドからベラが、トップ下からジオバニがラストパスを供給する役割を担ってもいい。ヒメネスとジオバニのツートップも、高い補完性を見せてくれるだろう。もちろんベラとジオバニの組み合わせも魅力十分だ。

 ベラもジオバニも、確かにクラブでのキャリアが順風満帆にいっていれば、さらに高いレベルのプレーヤーになり、代表でも不動の存在になっていたかもしれない。しかし、メキシコの魅力は変幻自在のパスワークにあり、今の代表チームには誰がピッチに立っても質が落ちない選手層の厚さがある。その中で、ベラとジオバニは間違いなく不可欠な選手だと言える。

2/2ページ

著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント