連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルトが一丸となって進める意識改革 球団ワースト96敗から脱却へ

菊田康彦

オープン戦で見えた「あきらめない姿勢」

春季キャンプからオープン戦にかけて意識改革を進めたヤクルトだが、宮本HCは「向かっていく方向は一致団結している」と語る 【写真は共同】

 これまでにない春季キャンプでの猛練習を経て、ヤクルトはこのオープン戦を6勝6敗4分け、全12球団中の8位で終えた。まだ本番前とはいえ、勝率5割は善戦と言っていい。特筆すべきは、勝っても負けても接戦が多かったことだ。特に敗れた6試合中、5試合までが3点差以内。そこには首脳陣、選手の「意識」が反映されている。

「みんなオープン戦のつもりでは戦っていないです。1試合1試合、勝てるようにというのは選手も全員が思ってくれていると思いますし、首脳陣もそのつもりでやってます」

 宮本コーチがそう語ったのは、福岡ソフトバンクを相手に7対6で競り勝った3月18日の試合後。この試合、アルフレド・デスパイネの3打席連続本塁打などで一時は3点差をつけられながらも、粘り強い攻撃で7回に一挙4点を奪って逆転勝ち。小川監督の言う「執念を持って、最後まであきらめない姿勢」が生んだかのような白星だった。

「それがチームの基本って言いますか、石井コーチがよく言ってるんですけど、粘り強く、フォアボールでもいいから出塁っていうのは言われてるんで。打率よりも出塁率のほうが大事だっていうのは強く言っていたので、それをみんなが心がけているからこそ、こういう逆転っていう結果になったと思います」

 山田哲人のその言葉からは、打撃面で「石井イズム」が浸透しつつあることがうかがえる。17日の北海道日本ハム戦でタイムリー、内野ゴロ、セーフティスクイズで3打点を挙げた廣岡大志が「ヒットでなくても点を取るというのが今年のチームの方針」と話したように、得点のバリエーションも明らかに増えた。チームによって試合数に違いがあるとはいえ、このオープン戦では12球団ダントツの19犠打を記録するなど、小技も使えるようになった。

「もっとレベルアップしないと」と宮本HC

 走塁面でも、18日のソフトバンク戦で代走として出場した荒木貴裕が、武田翔太のカーブがワンバウンドになったのを見て素早く二塁から三塁に進塁。河田コーチも「あれは準備がないとなかなかできない。『みんな見習わないとダメだよ』って言ったけど、各自が(積極的に)やろうという姿勢は見えるよね」と評価する。昨季は両リーグで11位だった盗塁の数も、このオープン戦では12球団中5位の13個を数えた。

 宮本コーチが「向かっていく方向としては、なんとなくみんな一致団結しているんじゃないかなと思う」とする一方で、「もっともっとレベルアップしないと、上のチームとはいい勝負はできない」と言うように、まだまだ課題は多い。それでも変革の兆しは確実に見えている。

「チームが変わろうという意識で、選手みんな(昨)秋からやっているので、すぐに結果が出るかどうかはわからないですけども、これをヤクルトのスタイルというかチームカラーにしていくための大事な1年になると思います」

 そう話すのは今年でプロ17年目、チーム最年長の石川雅規だが、その言葉どおり大事なのはこの1年でどれだけチームが変われるかだ。開幕まであと3日。今年はシーズンを通して、ヤクルトの変革に注目していきたい。

2/2ページ

著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント