連載:初めてのセイバーメトリクス講座

総合指標「WAR」でわかる選手の価値 初めてのセイバーメトリクス講座(9)

カネシゲタカシ

WARとシーズンMVP投票は異なる?

2016年のWARトップだった大谷 【写真:ロイター/アフロ】

鳥越:さきほど16年のセMVPが新井貴浩だった話をしました。しかし、このときのセは坂本勇人(巨人)のWARが9.6でトップでした。

カネシゲ:ちなみに16年は大谷翔平(当時日本ハム)がパのMVPでした。この年の大谷のWARはどれくらいだったんですか?

鳥越:「9.1」でした。こちらが当時のランキングです。

1位:大谷翔平(日本ハム)9.1(投手5.1+野手4.0)
2位:柳田悠岐(ソフトバンク)7.1
3位:浅村栄斗(西武)6.1
4位:則本昂大(楽天)5.8
5位:角中勝也(ロッテ)5.1
(データ提供:データスタジアム)

鳥越:投手としては5.1。野手では4.0という数字をマークしました。

カネシゲ:そうか。投打共通の指標だから、それぞれ足せばトータルでのWARが導けるんですね。これは便利だ。

鳥越:大谷は野手としても投手としても規定に達していません。しかし野手として4勝分、投手として5.1勝分、合計9.1勝分上乗せしています。

カネシゲ:日本ハム優勝の原動力でしたからね。そして投手としての貢献がより高かったこともこれで分かります。でも野手としても十分な働きですよね。

鳥越:もちろん。文句なしのMVPです。ちなみにMLBでシーズンMVPに選ばれる選手は、WARが1位の人が選ばれるケースが多いです。投票者たちがデータに精通しているんだと思います。

カネシゲ:日本も記者名と投票内容を公開する制度にしたら、結果が変わるんだろうな。

チーム経営に使えるWAR

カネシゲ:WARは投手も野手も同じ基準で比較できるっていうのが面白いですね。

【イラスト:カネシゲタカシ】

鳥越:MLBではこれをチーム経営に使っているんですね。

カネシゲ:チーム経営に?

鳥越:各チームは、自分たちが1勝するといくら収益があるかを試算しています。ということはWARを用いると、この選手がいくら稼いでくれるかを計算できるんです。

カネシゲ:なるほど! 例えば1勝で1億円儲かる場合、秋山翔吾なら7億くらい儲けさせてくれる、みたいな?

鳥越:そうです。当然そこから適正年俸も試算できるわけです。

カネシゲ:なるほど、非常にシンプルでわかりやすい。きっとメジャーの代理人なんかはこういうデータを駆使して年俸交渉するんでしょうね。

鳥越:例えばダルビッシュの1年目(12年)のWARは「4」前後でした(『ESPN』では「3.87」)。もしレンジャーズが1勝当たり2億円稼ぐとしたら8億円。その時ダルビッシュの年俸は約6億円だったから、球団にとっては効率が良かった、みたいな言い方ができます。

カネシゲ:大都市ニューヨークに本拠地を置くヤンキースだったら、1勝の価値はもっと高いんでしょうね。いやぁ、面白い。

鳥越:それでは「初めてのセイバーメトリクス講座」はこれにて終了です。このシリーズのコラムでは、セイバーメトリクスの基本的な指標を紹介してきましたが、これらの指標だけで野球を網羅しているわけではありません。また各指標にも改良すべき点がいっぱいあります。さらにはトラックマンのようにデータ取得技術も進化しています。セイバーメトリクスはまだまだ発展途上の研究分野ですので、これからも日々バージョンアップした指標が誕生してくるでしょう。もし興味があれば、ご自身で新しい指標を提案してみるというのも一興かと。

カネシゲ:先生、ありがとうございました!

読者の皆さま、ありがとうございました。「初めてのセイバーメトリクス講座」は今回で終了です 【スポーツナビ】

◆鳥越規央氏プロフィール◆
江戸川大学客員教授。「セイバーメトリクス」の日本での第一人者である。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ、「AKBペナントレース」の得点換算方法の開発など、エンターテインメント業界でも活躍中。JAPAN MENSA会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。4月12日にはZOZOマリンスタジアムで開催される「データで楽しむ野球観戦チケット:2018データ観戦コト始め、『選手名鑑』でシーズンを読み解こう!!」にて解説を務める。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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