自宅より長く過ごすクラブハウス 勝敗にも影響するMLB特有の文化

新川諒

さまざまなドラマが繰り広げられる場

カブスはチーム全体でテーマを決めて遠征先へ向かうなど独特の取り組みを行っている。写真は2016年にNFLのユニホームで移動するブライアント(右)ら 【Getty Images】

 試合当日はホテルからバスが2台、時間をずらして用意されているが、タクシーを使って球場入りする選手が多い。初戦の前には打者であれば特打が用意されおり、連戦前のミーティングもあるため早めに球場入りすることになる。球場での食事はクラブハウス内で提供され、試合後にもクラブハウス内で振舞われる。そのため、遠征中は外食をしなくても済む場合がほとんどだ。ちなみに日本のように夜中まで空いている飲食店が少ない街も多い。

 クラブハウスはチーム関係者にとっては自宅よりも長く時間を過ごす場所となる。そんな場だからこそ、野球界の掟として“What happens in the clubhouse, stays in the clubhouse(クラブハウスで起こった出来事は外には出さない)”と定められている。最近ではSNSにより、クラブハウス内の様子がオープンになってきているが、長いシーズンでは表には出ないさまざまなドラマが繰り広げられる場であることは間違いない。

 敵地であっても、チームをもてなすクラビーと呼ばれるスタッフが随時サポートをしてくれる。選手・スタッフはこのサポートに対して、連戦最終日にはチップを支払って感謝の意を伝える。選手年俸が公表されているため、このチップの額が少しでも少ないとすぐさまそのうわさが広まってしまう可能性があるので、注意が必要だ。1度日本人のために白いご飯をわざわざ用意してくれたクラビーたちがいたのだが、なんとそのご飯が臭い! ということがあった。とても良くしてくれたので、彼らの名誉のためにもどのチームかは伏せさせていただくが、その好意に対してチップをどれほど払うべきか非常に困った思い出もある。

カブスVはクラブハウスの改修のおかげ?

 食事だけでなく、クラブハウス内では選手たちがリラックスできる環境が用意されており、美容師が球場に来て、散髪してくれることもある。さらに日曜日には教会に行けない選手や関係者のために牧師が球場を訪れ、一室でチーム関係なく信仰と向き合う時間が与えられる。そして選手たちが練習前や雨天中断中にも気持ちを一度切り替えることができるように卓球台やビリヤード台を設置している球団もある。

 この空間はチームの士気にも大きく影響する。カブスが長年勝てなかったのは、ホームでも狭いクラブハウスが影響していたのではないかとも言われていた。チームの雰囲気が悪い時、嫌でもお互い顔を合わせないといけないほど狭かったからだ。代打や代走の準備をする場もなかったため、クラブハウス内でネットを設置して試合中に取り組む選手もいた。リラックスの空間と戦いの準備をする空間が一緒ではメリハリを付けにくいこともあったのだろう。実際に影響していたかどうかは分からないが、結果的に改修工事を終えて何倍もの広いクラブハウスとなった2016年にヤギの呪いを解いて108年ぶりの優勝を果たした。

 メジャーリーグ独特のクラブハウス文化、そして移動が繰り返されるシーズン。試合開始時間もバラバラで、国内では最大3時間もの時差がある。グラウンド上には現れない部分にも注目してメジャーリーグを見てみると新たな発見があるのではないだろうか。

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著者プロフィール

オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学中にMLBのクリーブランド・インディアンスで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後、ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者、ライターとして活動中。NHK衛星スポーツで中継番組に通訳・翻訳者として携わり、第4回WBCではMLB広報として侍ジャパンに帯同

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