自宅より長く過ごすクラブハウス 勝敗にも影響するMLB特有の文化

新川諒

試合前にクラブハウスでトランプをしてリラックスするアスレチックスの選手 【Getty Images】

 大谷翔平のエンゼルス加入で一段と注目の高まったメジャーリーグ。春先から晩秋まで続く長いシーズンは連戦、移動、また連戦と厳しいスケジュールが続く。メジャーリーガと言えども同じ人間。試合に向けて集中し、時にはリラックスしたり、気分転換したり、チームメートと喜怒哀楽を分かち合ったりと、多くの時間を過ごすのが各球場のクラブハウスだ。そのクラブハウスと遠征地への移動の様子について、レッドソックス、ツインズ、カブスなどで通訳を務めた新川諒氏に寄稿してもらった。

終盤は慌ただしいキャンプ地

 スプリングトレーニングもいよいよ終盤にさしかかった。これから6カ月近いレギュラーシーズンに加え、勝ち進んだチームにはその先のプレーオフという激戦が待ち構える。メジャー1年目を迎えるルーキーにとっては初めてなことばかり。早目に練習や試合のペースに慣れ、クラブハウスで自分のルーティーンを確立することも成功へのポイントとなる。

 メジャーの各球団はアリゾナやフロリダを拠点としてキャンプを張っている。開幕ロスター入りが確約されている選手にとってはある程度シーズンに向けた調整を行いながら、リラックスした雰囲気で過ごしていることだろう。だが開幕が近づくに連れて、その状況は一転し急な慌ただしさがやってくる。

 キャンプ地を離れる時期が近付くと、クラブハウスの一部は段ボール箱で埋め尽くされる。本拠地へ移動する1週間ほど前から荷物の運び出しが始まり、チームがホームタウンにたどり着く前に大型トラックで搬入するのである。キャンプ地で自家用車を利用していた選手たちも、その車を先に送るための手続きを進めるなど、いよいよキャンプ地撤収という雰囲気が漂い始める。

 キャンプ中にはメジャー枠の選手、コーチ、トレーナーだけではなく、組織内の多くの人間が関わっている。3月前半からマイナーリーグのキャンプが開始することで少しずつ人数が減っていく。キャンプ中に存在感を放っていたコーチが、実はメジャーのコーチではなかったということも珍しくない。もちろん組織の内情をよく把握していれば分かることだが、開幕を迎える頃になって「あれっ!?」となってしまうこともある。

遠征先への移動は大所帯

 キャンプ地で最後のオープン戦を戦った後、選手たちは正装し、ファンに見送られて次なる戦いの場へ移る。シーズン中の移動時の服装に関しては各球団さまざま。スーツを義務付ける球団もあれば、選手に一任する球団もあるが、基本的には襟付きシャツは必須でジーンズ、スニーカー以外を指定する場合が多い。国内移動(カナダは唯一国外となるが)とは言え、広大な米国では5時間以上も飛行機に乗ることもざら。最近ではカブスのようにチーム全体でパジャマやNFLのユニホーム着用など“テーマ”を設け、それに合う服装をそれぞれで準備し、楽しみながら移動する球団も出てきている。

 日本では一般の公共交通機関を利用するため、服装に気を遣う必要があるが、メジャーリーグの場合は球場からバスが2台用意され(選手用、スタッフ用に分かれる)、そのままチャーター機の真下に付けてくれる。球場からバスに乗り込む時、そしてホテルに到着してから部屋に上がるまでの時間以外はほとんど一般の目にさらされることはなく移動することができる。

 移動に使う機体や遠征先のホテルも球団によって変わってくる。私が在籍していた球団の中でも、ビジネスクラス席にカスタマイズされたチャーター機を利用する場合と、一般の航空機を貸し切った状態で利用する場合とがあった。機内では必ずしも前列に監督やコーチが座るわけでもなく、球団によっては監督が後部座席に座ることもある。機内にはチーム関係者以外にも契約している地元局のラジオ・テレビ解説者とディレクターが一緒に移動するため、総勢では50〜60人となる。音楽を聴いたり、映画を見たり、トランプをしたりとそれぞれの時間を過ごすが、自然な流れとしてドミニカ共和国出身選手は固まって座るなど、同人種でまとまることが多い印象だ。

 遠征先へ到着すると再び機体の下で待っているバスでホテルに向かい、チェックインすることなく部屋に上がり、その後荷物が部屋に運ばれてくる。大所帯での移動で荷物が届くにも時間が掛かるため、すぐに食事などへ出られる程度の着替えを手荷物として持参して機内に乗り込む者も多い。ホテルで食事などは用意されておらず、各選手、スタッフにはミールマネー(食事代)が配布され、それぞれ自由行動となる。

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著者プロフィール

オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学中にMLBのクリーブランド・インディアンスで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後、ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者、ライターとして活動中。NHK衛星スポーツで中継番組に通訳・翻訳者として携わり、第4回WBCではMLB広報として侍ジャパンに帯同

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