セリーナの涙、シャラポワのファイト 大坂なおみが胸に刻む女王たちの姿
ブーイングの中で 19歳のセリーナが戦ったあの日
それはテニスを始めて間もない大坂が、今もあこがれる存在に、あこがれるきっかけとなった幼い思い出――。
「セリーナが、インディアンウェルズで優勝した試合……あの試合で彼女は、スタジアム全体がブーイングするなかで勝った。その姿を見て、なんてすごい人なんだろうと思って……」
澄み切った空が広がるインディアンウェルズ。“セリーナの思い出”があるこの町で、記念すべきツアー初優勝を飾った。写真は優勝者の記念撮影に臨む大坂 【写真:Shutterstock/アフロ】
「私も子供の頃の試合で、観客のほとんどが対戦相手を応援したので、哀しくて負けてしまったことがあったの。セリーナの試合を見たのは、リアルタイムではなく数年後だったけれど、彼女の姿を見て、私もこんな風になりたいと思った」
子供の頃に記憶を巻き戻し、大坂はセリーナにあこがれた最初の契機を振り返った。
シャラポワと初対戦 実感した“ファイト”
初戦で元世界1位のシャラポワにストレートで勝利すると、その後もラドワンスカ、プリスコバ、ハレプら実力者たちを次々と倒した 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
ブロンドのポニーテールを揺らしボールを強打するロシア人は、2004年のウィンブルドン決勝でセリーナを破り、以降、彼女のライバルと呼ばれるようになっていた。そのセリーナのライバルは、いかなる状況にあってもクールな立ち居振る舞いを崩さず、ポーカーフェイスで戦い続ける。
「彼女のようなメンタリティーと、セリーナのプレーを備えた選手になれたら、かっこいいだろうな……」
大坂が、強きメンタリティーに敬意を抱いた選手の名はマリア・シャラポワ(ロシア)。そのシャラポワと大坂は、今回のインディアンウェルズ(BNPパリバ・オープン)初戦で、初対戦の時を迎えたのだった。
「彼女は、全てのポイントでファイトしてくる。私も同じように全てのポイントに集中し、なおかつ決めに行くべき場面を見極めよう」
センターコートでシャラポワと相対した大坂は、自分にそう言い聞かせ、うなり声と共にたたき込まれる強打を時に丁寧に打ち返し、時に自慢のフォアで強烈に打ち抜いた。さらに大坂が「自分を誇りに思った」のが、いずれのセットも競った展開から、最後は突き放し勝利をつかみ取ったこと。
「マリアの戦う姿から、多くを学んできた」と言う大坂は、まるで“師”に対して成長した姿を見せるかのように、内面の強さを示しストレートで勝利した。
力強いサーブでも相手を揺さぶった 【写真:Shutterstock/アフロ】
「この先、二人の対戦が何度見られるか分からない。だから今回、この試合を見られた人はものすごくラッキーだと思う。それに二人は、私の偉大なロールモデル(模範)。私は子供の頃からずっと、二人と対戦したいと思っていたから」
“自分がテニスを始めた理由”でもあるウィリアムズ姉妹の対戦を目の当たりにし、今やその二人と同じ舞台に立つ事実を再認識したことは、幼き日に見た夢の実現を、大坂に一層強く願わせたはずだ。