マイケル中村が送る第2の野球人生 豪州代表投手コーチとしての使命
東京五輪へ本腰を入れる豪州
日本では日本ハム、巨人、西武と8年間プレー。右横手からの速球とスライダーを武器に、クローザーとして活躍した 【写真は共同】
「もっとできたとは思うけど、もう疲れてしまったしね」
オーストラリアには、ABLというウィンターリーグがある。シーズンの短いこのリーグには、かつて北半球のトップリーグでプレーした選手が、「現役」の延長戦を送ることが多いが、マイケルはこれにも一切興味を示すことはなかった。
「いろいろな考えがあるんだろうけど。あのリーグは、若い選手が高みに到達するための場所。僕は06年に登り詰めてしまったからね。日本でのプレーでもう終わり。ABLでプレーするなら、日本で現役を続けたよ。もう家族とゆっくり暮らしたかったんだ。メルボルンにもチームはあるけど、僕の家からは球場も遠いしね。遠征で家を離れる生活ももうしたくはなかったしね」
余生をのんびり過ごしたいと考えていたマイケルだったが、オーストラリア球界が彼を放ってはおかなかった。昨年から、ジュニアレベルのナショナルチームの指導を任されたマイケルは、この春、ついにトップチーム、「サザン・サンダー」のコーチに就任することになった。
東京五輪を前にして、ナショナルチームの強化に本腰を入れているのは日本だけではない。04年にアテネ五輪で銀メダルを取った“アテネの奇跡”再びとばかりに、オーストラリアも冬季プロリーグのオールスター戦をナショナルチームvs.外国人選抜の対戦とするなど、チーム強化に努め、WBSC(世界野球ソフトボール連盟)ランキングを8位まで上げている。前回大会は出場できなかったプレミア12にも来年の第2回大会には出場してくることだろう。
「日本野球を変える必要はない」
3月3日、4日の「侍ジャパンシリーズ2018」では日本ハム時代の同僚である建山コーチ(写真左)らと再会したマイケル中村。これからの野球オーストラリア代表の強化へ第2の野球人生を送る 【写真は共同】
それでも自国開催の五輪では、金メダルは至上課題だ。世界の頂点に立つことを考えると、やはり彼が指摘したように、パワー不足は絶対に克服すべき課題であると思われるのだが、マイケルは、「このままでいい」と言い切る。それは、決して現状維持を意味するのではなく、長年日本野球が培ってきた「匠の技」は武器にパワーベースボールに十分対抗できるという意味である。
「堅実なディフェンス、バントの技術、アグレッシブなベースランニング、この部分はメジャーより上だよ。久しぶりに見た日本野球は、僕がプレーしていた頃のままだった。変える必要はない」
インタビュー後に行われた第2戦も、侍ジャパンはオーストラリア相手にそつのない攻撃で得点を重ねて6点を奪い、投手陣は前日に続いて完封リレーで完勝した。パワー主体のオージーベースボールとの差が際立った2連戦に、オーストラリアの選手も脱帽だった。ただし、第1戦では、東北楽天でもプレー経験のある元メジャーリーガー、トラビス・ブラックリーをはじめとする投手陣が侍打線を2点に抑え込んでいる。パワーでは日本を上回るだけに、投手陣が踏ん張ってロースコア戦に持ち込めば、ワンチャンスを生かして「アテネの再来」も夢ではない。
「オーストラリアの野球も確実に進歩しているよ。ジュニアレベルからの強化が実り始めているからね」
日本生まれのオージー、マイケル中村の第2の野球人生は今スタートを切ったばかりだ。