NPBで実施するリクエスト制度の課題 2014年から導入の韓国球界事情は!?

室井昌也

映像検証には設備と技術が必要

KBOビデオ判読センター(写真上。写真:韓国野球委員会)とバックネット裏に設置された4D replay用のカメラ(下。写真:ストライク・ゾーン)。最小30台のカメラがとらえた映像を瞬間的に機械が合成して一連の動きを立体的な映像 【写真:韓国野球委員会/ストライク・ゾーン】

 映像検証に必要な設備と技術を備えている韓国。しかし昨年からはそれがリプレー検証に生かされていないという実状がある。KBOは約3億円を投入しリーグが運営するビデオ判読センターを開設した。これまでの中継カメラに加え、検証用のカメラ3台を各球場に設置し、それらの映像を判読官3人と専門のエンジニア3人が判読センターで検証。球場の審判団に音声で検証結果を報告する形となった。

 一見、発展したようにも思えるが、ビデオ判読センター開設に際し、KBOと放送局側との連携がとれておらず、判読センターに送出される映像は中継映像の一部のみ。それには4D replayなどは含まれておらず、判読センターよりも放送局側の方が核心に迫る映像を手にしているという状況が生じている。日本においても判断材料を中継映像に依存する以上、NPBと放送局の間で利害を明確にしなければ制度そのものが成立しなくなるだろう。

 そして判読センターに関しては、昨年7月20日のロッテvs.サムスン戦で判定ミスがあった。左中間フェンス上部の黄色いラインに打球がダイレクトに当たり、その後ろの手すりに当たった後、グラウンド内に跳ね返った打球に対し、本来ホームランと判定すべきところを判読センターが二塁打と判断した。KBOはこれを誤審と認め、センター長に10試合出場停止と、2人の担当者に約5万円の制裁金を科している。これによって判読センターにも審判同様の知識を持つ人材の必要性が明らかになった。

ファンによる審判批判が減った韓国

 また、リプレー検証の問題点として判定までに時間を要することがある。そこで韓国では今年から5分以内に検証結果が出ない場合は検証を打ち切り、当初の判定通りとすることになった。日本のリプレー映像の検証時間は「5分以内」とされ、確証のある映像がない場合は審判団の判断となる。もし5分以内に映像による検証が出来なかった場合の最終判定に、どれだけ説得力を持たせられるのかが難しいところだ。

 その他の日韓の違いとして韓国では検証中、場内のビジョンには「ビデオ判読中」という文字が表示されるのみで映像は映されない。せめてもの演出としてロッテやktなどの本拠地ではBGMに「名探偵コナン」のメインテーマが流れ、検証ムードを漂わせるくらいだ。一方の日本は審判団が確認している映像と同じものを場内のビジョンにも映すことが可能となっている。そのためジャッジが下るまでの時間、ファンをやきもきさせることは少なそうだ。

 韓国においてリプレー検証によってもたらされた大きな効果に、ファンによる審判への批判が大きく減ったことがある。その点ではリプレー検証が「白黒はっきりさせたいお国柄」に合っていると言える。また制度に問題点があればその都度検討し、シーズン中でも変更するのは韓国らしい柔軟性とスピード感言えるだろう。

 日本ではリクエスト制度がどのような変化をもたらすか。韓国の事例を見るに日本でこの制度をスムーズに定着させるためには、「5分以内の映像検証の完結」が最も大きな壁になるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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