ハプニングを糧に成長するDF大岩一貴 日本代表にこの選手を呼べ!<仙台編>

板垣晴朗

「目の前の相手との1対1に絶対負けたくない」

仙台からはディフェンスリーダーに成長した大岩一貴を推薦したい 【(C)J.LEAGUE】

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督の言葉が各種メディアで伝えられるときに、“デュエル”という言葉が強調されるようになって久しい。それを単なるピッチ上の「1対1」としても、背景にチームの全体像やその将来などさまざまなものを背負った「決闘」としても、いかなる“デュエル”においても一歩も引かない姿勢を見せるDFが、ベガルタ仙台で活躍を続けている。その人、大岩一貴を日本代表に推薦したい。

 確かに彼はハリルホジッチ監督のもとでプレーしたことはないが、たとえ「サプライズ選出」であっても、世界の舞台で戦う力は備えている。

「試合でも練習でも、目の前の相手との1対1に絶対負けたくない」

 それが彼の信条である。空中戦でも地上戦でも、体の強さと寄せの速さを生かして球際での勝負を制するDFだ。そして闇雲につぶしにかかって持ち場を留守にするのではなく、チーム戦術の中で、彼はこの1対1の強さを発揮する。

緊急事態で得たチャンスを確実に生かす

大岩は急きょめぐってきたチャンスを生かし、1対1などの能力を開花させてきた 【(C)J.LEAGUE】

 その「戦術理解能力」も「体の強さ」も、彼は日々のトレーニングをコツコツと重ねているからこそ得られたのだが、緊急事態をもって、その能力を開花させてきたことも多い。

 仙台の一員としてデビューした、2016年のJ1・1stステージ第1節の横浜F・マリノス戦もそうだった。この試合は大岩にとって仙台のみならず、J1の場においてのデビュー戦でもあった。年代別の日本代表で国際舞台を経験してきた大岩だったが、ほんの2年前まではJ2が日常だった。そして16年にジェフユナイテッド千葉から仙台に加入し、J1へ挑戦。この年の開幕2週間前は「まだついていくのが精いっぱい」と話していた。それが、開幕戦で「4−4−2」の右サイドバック(SB)としてフル出場を果たすことになる。

 実はこの先発出場のチャンスは、このポジションで先発候補だった菅井直樹が、横浜FM戦前日に負傷したことでめぐってきたもの。そして大岩は対面する齋藤学(現川崎フロンターレ)らとの対決を制し、1−0の勝利に貢献。この試合での堂々としたプレーぶりだけを見ていては想像がつかないが、後に大岩は、試合前日は「なかなか眠れなかった」ということを明かしている。

 その後も大岩は右SBとして出場を重ね、J1でのプレッシャーやスピードに慣れるばかりか、サイドを激しく上下動する運動量も目立つようになった。同年の1stステージ第10節の川崎戦では、センターバック(CB)で先発出場。この時もハプニングがきっかけだった。試合当日の朝にこのポジションで先発が濃厚だった平岡康裕が発熱して欠場を余儀なくされ、大岩が中央に移動することになったのだ。この試合を1−1で終え、大岩は勝利を逃した悔しさを試合後ににじませながらも、J屈指の攻撃力を誇る川崎を相手に引けをとらない守備を見せた。

仙台で身につけたディフェンスリーダーの風格

今季は共同でチームキャプテンを務める 【(C)J.LEAGUE】

 翌17年から、仙台は「3−4−2−1」を基本システムに採用した。J1で2年目となった大岩はこれにも対応し、3バックの右で開幕から出場を重ねた。当初は「覚えることが本当に多い」と戸惑いも見せていたが、同サイドで組む選手たちの特性を生かしながら、自身も以前は苦手だったという攻撃のビルドアップにも関与していった。

 そしてこのシーズンの途中に、再び大岩にとって転機が訪れる。J1第22節のサンフレッチェ広島戦で、3バックの中央だった平岡が出場停止だったため、大岩がこのポジションに移った。すでにルヴァンカップのグループステージで経験済みのポジションではあったが、リーグ戦では初めて。「守備のコントロールを今まで以上に求められるポジション。前より、本当にしゃべることが多くなりました」。覚悟を決めて臨んだこの一戦で、主にパトリックと真っ正面からぶつかり合い、1対1をこなす中でも周囲とのポジションを念入りに調整。1−0と無失点勝利に貢献し、以後はこのポジションが大岩の定位置となった。

 試合をこなすごとに、大岩はディフェンスリーダーとしての風格が身についていった。富田晋伍が負傷離脱したあとの終盤戦では、腕章を巻いてピッチに立った。「あまり気負いすぎてもいけないので……」と、過剰に意識しないことを心掛けたというが、それまで以上にコーチングの声を出し、J1の舞台でゲームキャプテンを務めるようになった。17年の大岩は、チームで唯一、全公式戦に出場した選手である。

 今季は富田や奥埜博亮とともに、共同でチームキャプテンを務める。ここまでわずか2年というJ1でのプレーを経て、大岩は年代別日本代表時代をはるかに上回る“デュエル”の強さと、スケールの大きなプレーを身につけた。ハプニングがあっても、それを成長の糧としてきたこのDFなら、急きょ世界トップレベルの舞台に呼ばれても、日本代表として大きな足跡を残せそうな予感がする。
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著者プロフィール

1974年1月8日生まれ。仙台を中心に、全国各地のスタジアムと喫茶店をめぐるJリーグ登録フリーランスライター。なでしこリーグやJFLなども取材する。大学院時代の研究テーマとのつながりから、ドイツ・ブンデスリーガ取材にも赴く。著書に『在る光 3.11からのベガルタ仙台』(スクワッド EL GOLAZO BOOKS)など。

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