アイホとフィギュアはどこまで違う? 【対談】久保英恵×安藤美姫 後編
異なるスケーティングの特徴
スケーティングの技術もアイスホッケーとフィギュアでは異なる。どういう違いがあるのか 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
久保 違いますね。フィギュアの人はやはりエッジ使いが上手なんです。
安藤 アイスホッケーの人はバックがあまり得意ではないですよね(笑)。
久保 そう! フィギュアをやっていた人がアイスホッケーをやると、バックスケーティングがすごくきれいなんですよ。
安藤 でも前向きはアイスホッケーの方がスピードは出ますね。速いと思います。後ろは勝てます、絶対に(笑)。
久保 なので最近はフィギュアの人からスケーティングを教わってやっています。特にNHL(北米のプロアイスホッケーリーグ)や米国のプロの人たちは、よく教えてもらっているようです。
安藤 だからフィギュアの人とカナダのアイスホッケーの選手が、SNSに一緒によく写っているのか。
久保 そう、シーズンが始まるころにスケーティングのレッスンを入れてもらって、フィギュアの人に教えてもらうようにしているみたいです。
――アイスホッケーでは普段、スケーティングの練習をあまりやらないのですか?
久保 シーズン初めはもちろんやります。もう一度、思い出すようにやりますけれど、シーズン中になるとそこまでスケーティングの練習はしないですね。ダッシュや心肺機能を上げるためにはやりますが、細かいスケーティングはやらないです。
生涯スポーツにしていきたい
アイスホッケー、フィギュアを含めたスケートは生涯スポーツになるという。2人はその未来実現に向けて努力していくことを誓った 【坂本清】
安藤 フィギュアはスポーツと見られがちですが、アートな面も持っていると思います。ジャンプもあるし、点数が付くのでそれを見るとスポーツだと思うのですが、音楽との調和や解釈、衣装などで普段の自分と違う自分を氷の上で表現しないといけないというところでは、役者とアーティストの面をすごく持っていると思います。
技が分からなくても美しさや衣装のきれいなところに注目する人もいますし、ジャンプが好きな人もいます。「この音楽が素敵で、この人はこういう調和ができている」という目線で見る人もいますし、順位だけを見てすごいと言う人もいれば、「このスケーターのこの作品は素晴らしかった」と、いろいろな楽しみ方ができるのがフィギュアスケートなのではないかと。今は注目されている選手しか取り上げられないというのが日本の報道の現状ですが、私はそれを変えたいと思っています。
日本にフィギュアスケートの歴史が刻まれ始めてきたからこそ、特定の選手だけではなく、大会に出場しているすべての選手をきちんと報道すべきだなと個人的には思います。それが選手たちに対しての尊敬につながるし、特定の選手が有名になっているだけで、今の日本はフィギュアスケート自体が有名なわけではない。カナダで言うアイスホッケーと一緒で、「選手も有名だけれど、アイスホッケーが強いから見に行く」みたいに、フィギュアも個人の選手を見に行くだけではなく、「フィギュアを見に行こう」となったら本物かなと思っています。
――メディアの立場からも頑張ります!
安藤 あっ、メディアの方ということを忘れていました(笑)。逆にスポナビさんはいつもいろいろな選手の情報を出してくれているので、そういうふうに見ていなかったです。
久保 グサッと来たみたいですよ(笑)。
――もう少し頑張ります(苦笑)。久保選手はアイスホッケーの魅力はどういう部分だと感じていますか?
久保 やはり「氷上の格闘技」と言われるくらいなので、スピード感や迫力というものは見ていても楽しいですし、やっていても楽しいです。フィールドの競技としては珍しくゴールの裏を使えるプレーがあったりします。ゴール裏を使ったプレーは他の競技にはほとんどないので、そこはすごく楽しめる部分だと思いますね。海外では生涯スポーツと認識されていて、遅くにアイスホッケーを始めた人が、歳を取ってリタイアしたあとでもできるスポーツだと言われています。趣味としてやれるので、日本でも生涯スポーツになっていけばいいですし、そうしていきたいと思います。
――趣味としてはハードルが高くないですか?
久保 そうでもないですよ。
安藤 そんなことないですよね。フィギュアも年齢・性別問わずに実は楽しめて、アダルトの試合もあったりします。自分が中学生のときに通って練習していた新横浜のリンクには、そのときにいたおばあさまたちがまだやっています。それくらい、たぶん誰でもできますよね。
久保 そうですね。本当にできます!
安藤 フィギュアもけっこう人気は出たんですけど、すごく遠いスポーツと思われているんですよ。氷上だからですかね?
――たぶんそうかと。氷上で滑るというのはそこそこハードルが高いように感じます。
久保 でも、そこでちょっとずつできてくると、楽しくなって本当にハマる方が多いので、アイスホッケーは遅く始められた人の方が熱いです。
安藤 フィギュアもそうです。スケート教室に来てくださった方は「すごく楽しいし、『自分で壁を作っていただけなんだ』と思ってレッスンを受けています」と言っています。たぶん1回やると、「実は意外にサッカーや野球みたいに身近なスポーツなんだ」と思えるようになると思います。
久保 そういう環境を作りたいですね。
安藤 作っていきましょう。
久保 リンクをもっとたくさん作らないといけないですね。
安藤 プールと一緒に作るといいと言いますよね。コストが少し安くなるそうで。プールで動いている燃料か何かでリンクを固める。そういうサイクルがあるみたいなので、ぜひお台場かどこかにも作っていただければ。そしたら子どもがスケートをやっているときに、お母さんたちがショッピングをしたりとか、映画やデートに来たカップルも「スケートやってみようよ」みたいになるんじゃないかと思っています。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)