長谷部誠の後継者に推したい川辺駿 日本代表にこの選手を呼べ!<広島編>

中野和也

急務とされている長谷部の後継者探し

長谷部の後継者として、広島から推薦したいのは川辺駿だ 【中野和也】

 それにしても、長谷部誠という才能は偉大である。決して猛烈なスピードがある選手ではないし、テクニックはあるが突出しているわけでもない。だが、それでも若くからドイツでプレーして高い評価を受け、日本代表でも史上6人目となる国際Aマッチ通算100試合を達成した。知的であり、判断にブレがなく、攻守のバランスを高いレベルで保つ。何よりも素晴らしいのは、攻守にわたって仲間を助けるサポートの感覚が優れていることだ。だからこそ、彼のいるチームは選手という点が線でつながっていく。

 果たして今の日本に、長谷部のようなプレーができる選手がいるだろうか。少ないが、いることは間違いない。だが、それはたとえばサンフレッチェ広島の森崎和幸であり、柏レイソルの大谷秀和であり、年齢的にもベテランの域に入った選手たちが浮かぶ。

 もちろん、2人をワールドカップ(W杯)ロシア大会を戦う日本代表に推薦したいという気持ちはある。中村憲剛や中村俊輔らとともに、ベテランを代表に選出できないというルールはない。だが、やはりここは若者に期待したいと思う。ロシア大会に続くカタール大会のことを考えれば、長谷部の後継者を作る必要があり、しかもその仕事はもはや急務といっていい。

“気の利く”プレーでチームをけん引する川辺

主役も脇役も張れるようになった川辺。名波監督(左)の元で、プレーの幅が広がった 【Getty Images】

 では長谷部の後継者となり得る選手は誰なのか。広島から川辺駿を推薦したいと思う。

 3年にわたるジュビロ磐田への期限付き移籍で、名波浩監督や中村らから薫陶を受けた若者は、大きな自信をつけて広島に戻ってきた。タイキャンプから実力をしっかりと発揮し、城福浩新監督の信頼も勝ち取りつつある。自身も「チームをけん引しよう」という気持ちでピッチに君臨しているのが頼もしい。

 なぜ、川辺が評価されるのか。典型的なゲームメーカーである名波や中村とはタイプが違う。彼らは主役であってこそ輝きを放つ選手であるが、川辺は主役も脇役も張れる、俳優でいえば西田敏行や堺雅人のような、第一級の個性派俳優だ。実際、広島ユース時代の川辺はゲームメーカーとしての役割を担って試合を構築していたが、磐田では例えば中村のプレーをサポートし、運動量を発揮して走ることでスペースを作る「脇役」のプレーでも輝いていた。プレーに幅が出てきたのだ。それは紛れもなく、名波監督の指導の成果だろう。

 そういうプレーができるのはなぜか。抽象的な言葉になるが、彼は“気が利いている”のである。ポジション取りも、プレーの選択も、ボールを持っていない時の動き出しにしても。あらゆるプレーが周りの助けになり、試合を進めるにあたって有効に機能する。つながりが生まれるのだ。

11人の選手を線でつなげる数少ない選手

長谷部の不在時には苦境に陥った日本代表。川辺が昨年の低迷から広島を復活させれば、代表入りの資格は十分だろう 【Getty Images】

 今季最初の実戦となったポートFC戦(1月29日)では、まだ戦術が深化せずコンディションが上がっていない広島はミスを連発してしまった。それでも川辺はその中で「気が利いた動き」で周りを助け続け、リズムを生み出した。例えば、左サイドバックの高橋壮也がボールを持った時にはもう動き出し、次の次のプレーを予測して前線に飛び込む。このオフ・ザ・ボールの動きによって、高橋のボールを受けた右ウイングの馬渡和彰に対して選択肢を与え、相手の迷いを生み出し、最後には馬渡のパスを受けてゴールを決めて見せた。見事といっていい。

 若い世代を見渡してみても、川辺のように選手を線でつなげる蝶番(ちょうつがい)のような働きができるタレントは少ない。一発のパスで局面を変えられる選手はいるし、激しく圧力をかけてボールを奪い切る選手もいる。だが、11人の選手を線でつなげて組織化できる能力を持つ、長谷部のような本物のゲームメーカーの素養を持つタレントが、どれほどいるだろうか。

 W杯アジア最終予選で長谷部が不在だった時、代表チームは苦境に陥った。現状、代役はいない。しかし川辺であれば、キャプテンシーはともかくとして、プレー面で彼の役割ができる可能性を感じる。もちろん、代表での国際経験はまだないが、長谷部だって「初代表」の時には国際経験など持っていなかった。

 能力の高さは磐田で証明済み。広島に戻った川辺駿はユニホームの注文件数で第1位になるなど、サポーターから大きな期待を集めている。その中で結果を出し、昨年15位と低迷した広島を復活させれば、代表入りの資格は十分。若者の展望は、大きく広がってくるはずだ。
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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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