「圧倒的な王者」タイ攻略のために――リオ銀ボッチャ・廣瀬が見据える高み

宮崎恵理
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提供:東京都

勝負の一投も「ただただいつも通り」

廣瀬の雄叫びが響く時は、日本に勝利が引き寄せられた瞬間だ 【写真:アフロスポーツ】

 リオデジャネイロパラリンピック銀メダルを決める、重要な鍵となったのは準々決勝での中国戦だった。ボッチャ団体戦は、1チーム3人で構成され1人2球を投げる。5−2のリードで第5エンドを終えた日本は、ほぼ勝利を手にしていた。ところが、ここから中国が猛追する。ジャックから遠いボールのチームが次の球を投げるルールで、日本は中国ボールよりジャックに近づけることができずに6球全てを投げ終わってしまう。4球を残した中国が難なく3得点を挙げ、試合はタイブレークにもつれ込んだのだった。

 日本がジャックに密着させると、中国がジャックを弾き日本ボールを遠ざけてしまう。廣瀬は、日本チームの最後の2投を任されていた。中国ボールが密着するジャックを、1球で中国ボールもろとも豪快に弾き飛ばした。中国の5球目が、動いたジャックに再び迫る。

 息がつまるような展開の中、廣瀬は最後の1球をつかんだ。大きく深呼吸。閉じた目が開かれ、左手が時計の振り子のように前後に揺れる。リリース。ボールはピタリとジャックに吸い寄せられた。ゲーム最後の中国ボールはジャックに届かず、日本の勝利が決まったのだった。

「ウォー!!」

 廣瀬の雄叫びがアリーナにこだました。

「成功するか、ミスするか。それでも投げなくてはいけない。ただただいつも通り投げようという気持ちだけで投げ切りました」

 決勝では「圧倒的な王者」タイに4−9で完敗した。タイをどう攻略するかが、2020に向けた最優先課題である。

感謝の気持ちを忘れずに目指す2020

東京パラリンピックでは「表彰台の真ん中に立つ」と語る廣瀬。そのためには王者タイを倒すことが絶対条件になる 【スポーツナビ】

 リオから1年が経ち、17年10月に廣瀬は長年通っていた障がい者施設から一般企業の西尾レントオールに就職した。競技に専念できる環境を初めて手に入れた。

「これまでは勤務後、週2回程度だった練習が、5回できるようになりました。最初は、思わず練習をやりすぎてしまった(笑)。オーバーワークになれば体に負担がかかることを痛感して、練習のボリュームや時間などを改めて見直しました。自分の体の変化を感じられたことは、とても有意義だと思っています」

 17年、日本は宿敵タイを脅かしている。10月に行われたバンコク・ワールドオープン準決勝でタイを下し、決勝で韓国との接戦を制して優勝。さらに11月、ジャパンパラボッチャ競技大会でも日本はタイから1勝を挙げた。

「団体戦は自分の投球だけで勝てるわけではありません。味方の好投があってこその勝利。全員の集中力が結集した試合でした」

 廣瀬は、競技を続ける上で絶対に忘れてはいけないのが、サポートしてくれる人への感謝の気持ちだと強調する。

「ボッチャの選手は障がいが重い。自分でできることと、どうしても人にサポートしてもらわなくてはできないことがあります。例えばお風呂に入ることは自分一人ではできません。海外遠征などでもサポートしてくれるスタッフがいなければ競技を続けることができないわけです。支援してくれる人への恩返しは競技の結果だけ。感謝の気持ちを持ちながら、毎試合、結果を追求しています」

 2020東京パラリンピックまで、あと2年。

「世界一のタイを倒して、パラリンピックの表彰台の真ん中に立つこと」

 金メダルを取るためにやるべきことはまだまだ山積している。技術も体力も生活面もさらに向上させなくてはいけない。廣瀬は、持ち前の集中力でその全てを成し遂げていくのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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