卓球人気にオールドファンは夢心地 今だから笑える暗黒期のトラウマ

伊藤条太

愛ちゃん人気が生んだ異様な雰囲気

幼くして「天才卓球少女」として有名になった福原を追い、会場にはテレビカメラが殺到した 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 全日本卓球にマスコミが大挙して押し寄せるようになったのは、ご存じ愛ちゃんこと福原愛(ANA)が出場するようになってからだ。福原の登場に合わせて、会場にはそれまで見たことがないほどのテレビカメラが殺到した。それらは福原のコートだけを取り囲み、福原を撮るためゲームが変わるごとにすべてのカメラが動物の群れにようにサイドを移動した。そんな異様な雰囲気で試合が行われ、福原戦が終わるとそれらすべてどこかに消え、いつもの全日本に戻るのだった。

 人気があるのは愛ちゃんであって、誰も卓球になど興味はない、期待するな、そう思いながらも、多くのマスコミが来ることがうれしくて仕方がなかった。もしかして、ついでに少しは男子とか他の試合も映して卓球の魅力がアピールされるのではないだろうかと淡い期待を抱くが、オンエアを見てまた愕然とする。カメラは徹底的に愛ちゃんしか映していなかった。他の試合どころではない、愛ちゃんの試合の相手すらまるでいないかのようにほとんど画面に映らないのだ。福原が2004年度に坂本竜介と組んだ混合ダブルスで優勝したときは、相手どころか、パートナーの坂本すらほとんど画面に映らなかった。あれほど激しい動きなのに、なんと見事なカメラワークだろうか(笑)。

 坂本は当時の卓球界のホープである。今回で言えば、伊藤美誠(スターツSC)と組んで混合ダブルスで優勝した森薗政崇(明治大)を画面に映さないという、信じられないようなことがほんの10年ちょっと前まで公然と行われていたのだ。

04年度の混合ダブルスを制した福原・坂本組。しかしテレビが映したのは福原ばかりだった 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

 そんな胸が締め付けられるような暗黒時代は今や過去のものとなり、卓球専門誌ではないこのような公共の場で記事を書かせていただく光栄に浴している。さらに2020年東京五輪に向けて、若い世代が恐ろしいほどの成長を遂げており卓球はますます盛り上がりを見せるだろう。卓球コラムニストとしては、まるで雲の上を歩いているような浮ついた幸福感を覚えながらも、この夢はいつまで続くのだろうかという不安も覚える。

 大衆は移り気だ。何かのきっかけでいつまた飽きられるかわからない。大差で奪ったゲームの直後に逆転されるというのが卓球のみならず人生の常だ。まして卓球競技は、それまでのゲームを大差で何10連敗もしてきた身なのだ。東京五輪がピークになってしまわないよう、より魅力的な卓球に向けて今こそ仕掛けをしておかなくてはならない。卓球暗黒時代の悪夢を知る筆者は強くそう思う。

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著者プロフィール

卓球コラムニスト。1964年、岩手県生まれ。中1から卓球を始め、卓球暗黒時代に「これでもか」というほど卓球に打ちこむ。東北大学工学部を経てソニー株式会社にて商品設計に従事。卓球本収集などの場外乱闘活動の結果、2004年より月刊誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。世界選手権のWEB現地速報、卓球DVD『ザ・ファイナル』シリーズの監督なども務める。2018年、ソニーを退社しフリーに。近所の小中学生に卓球指導をしながら執筆活動にいそしむ。著書に『ようこそ卓球地獄へ』『卓球天国の扉』等。『奇天烈逆も〜ブログ』を日々更新中。

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