【スターダム】プロレス界からの卒業を決めた風香GM「一人でも多くの方に直接お礼を言えたら」

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21日の後楽園大会で妊娠を発表し、プロレス界からの卒業を発表した風香GM 【写真:前島康人】

 女子プロレス団体スターダムの“スーパーGM”風香が、21日に行われた東京・後楽園ホール大会で妊娠とプロレス界からの卒業を発表した。

 風香は2004年にJDスター女子プロレスでデビュー。10年3月には引退試合を行い一度プロレス界から離れたが、“グラレスラー”愛川ゆず季のコーチを務めたことをきっかけに、11年1月に旗揚げされたスターダムにGMとして就任することとなった。

 スターダムでは、GMとしてリングアナやオープニングアクトを務めると同時に、生え抜き選手の育成も行い、団体の成長に尽力。波乱万丈な時期を乗り越え、スターダムの地位確立に貢献してきた。

 17年6月にキックボクサーの一輝と結婚。そして今回、第一子を授かり、プロレス界から離れることを決めた。その風香GMに現在の思いを聞いた。

スターダム1期生の後押しでプロレス界に残ると決めた

現役引退後はここまでプロレスに関わるつもりはなかったと話す風香GM。その心を動かしたのはスターダム1期生のメンバーでもあった 【スポーツナビ】

――21日の後楽園大会でプロレス界からの卒業を発表されましたが現在の心境は?

 正直、起き上がれないくらい体が辛い時期もありました。でもせっかく15年間やってきて評価をいただけているのに、今しんどいから辞めますということには絶対したくなかったので、意地でも最後まで仕事をまっとうして有終の美を飾りたいという気持ちが強いです。

――15年の間にはレスラーとして6年、少し時間をおいてスターダムのGMとして8年過ごしてきたわけですが、今振り返るとどうですか? まずは最初にレスラーとして過ごした6年については?

 本当に必要な時代でした。プロレスを始めた頃はプロレスに対してそこまでやる気があったわけでなく、プロ意識が芽生えるまでに時間がかかりました。立場を与えられたり、ファンの方に応援してもらって少しずつ。だから、指導者になった時、技術をプロにするのと同じように、気持ちをプロにするのにも同じぐらい時間がかかることが自分の経験で分かっていたので、いろいろなことを焦らずに求めていけるようになったんだと思います。

 もし私が最初からやる気マンマンのエリートだったら、今指導している子たちの心境は分からなかったですね。そういう意味では自分のゆるい感じが、指導者になった時の武器になったかなと思います。

――2010年3月に引退興行を行って、一度はプロレス界から離れることになりました。ただその翌年にはスターダムのGMとして復帰することになります。

 3月に引退をした後、(スターダム社長のロッシー)小川さんから、「愛川ゆず季を風香の後釜にしたいと頼まれたけどコーチしてもらえないか」と言われました。私はもうプロレス界に残るつもりはなかったので断ったんですけど、小川さんにはお世話になっていたので完全に断るのも申し訳ないと思っていたんです。「ほかの方に頼んでみてダメだったら考えるのでもう一度連絡を下さい」と伝えたら、本当に聞いたかどうかは分からないのですがしばらくして、「ダメだったからどうにか見てくれないか?」と言われて、4月中には引き受けたので、結局休んだ時期は2週間ぐらいなんです(笑)。

――愛川さんの指導をしている最中に、「風香プロレス教室」を開くようになったんですよね。

 最初の1、2回はマンツーマンで練習したのですが、やっぱりマンツーマンでの練習には限界があって。選手の時代に「私の元でやりたい。教えて欲しい」と言っていた子がいたので、まずはその子たちに「プロレスやってみる?」と声をかけました。それと、「昔、応援してくれていた子がいたな」と思っていたタイミングでブログにメッセージをくれた子がいて、「一緒にやろうよ」と誘いました。それが世IV虎(現・世志琥)で、そんな感じでとんとん拍子で美闘陽子、星輝ありさ、岩谷麻優がそろったんです。

 でも私はもうプロレスの仕事をやろうと思っていなかったので、習いごととして教えるだけのつもりでした。ただその子たちが頑張っている姿を見て、「何とかしてあげたい」と思って、小川さんに「団体にしましょう!」と打診したんです。でも私はデビューまで教えて、そこで手を引いて後は小川さんに丸投げするつもりで。最初はそのつもりだったんですけど、その空気を察した世IV虎が1期生を引き連れて、めちゃくちゃ自然を装って、「私たちずっと風香さんに教えてもらえるんですよね?」と言われて。その時に「違う」とは言えず、「……そうだよ」って答えて、「言ったからには、こんな純粋な子たちを裏切れない」と、そこで心が決まりました。

 ある意味、世IV虎がそう言ってくれなかったら私はプロレスを続けていなかったと思うし、そういう意味で恩人かも知れません。

岩谷の赤いベルト戴冠で「本当にやり切った!」

岩谷選手の成長が一番うれしかった。逃げ出すことも多かったけど、必ず戻ってくるという信頼感もあった 【写真:SHUHEI YOKOTA】

――もう一度プロレスに関わることになりましたが、現在スターダムは人気団体になりました。風香さん自身、ここまで来ると思っていましたか?

 最初は自信がありました。私のファンの方もいたし、何かをやったら反響もあったので。だけどそれを継続するというのは難しいと思っていたので、「5年かな……」と思っていたんです。そうしたら小川さんが以前の団体を5年でダメにしたというのを聞いて、絶対それには負けたくないと(笑)。それで5年以上は何があっても続けようと思っていました。

 だけど最初は、愛川さんがいて、世IV虎や美闘もいて“ブーム”みたいな状態。でもブームになったものはいつかすたると思ったので、一過性のブームで終わりたくないと思っていました。特にいろいろな騒動がスターダムにはあって、本当に危機はありました。それなのにここまで安定できるというのは正直、考えていなかったですね。昨年はとくに安定感もあり、それがあったからこそ結婚にも踏み切れたのかなと思います。

――確かに昨年は16年から続いた紫雷イオ選手、宝城カイリ選手(現カイリ・セイン)、岩谷選手の3本柱と、復帰した美闘選手の4人を中心に、スターダムの生え抜き選手も成長して人気も実力も安定していた感じでしたね。生え抜きの選手は風香さんの教え子でもあったと思いますが、その成長はどう感じましたか?

 生え抜きの選手が年功序列を破って出てくるのがスターダムが目指していたものだったので、素直にうれしかったですね。自分が教えた弟子が、どんどん成長して、だんだん遠くに見えた時に、「いい選手だなー」って遠目に見るのが楽しいんです(笑)。WWEへ行ったほーちゃん(宝城カイリ)もだし、麻優ちゃんや世IV虎ちゃんや匠(彩羽)。注目されているのを見ると、感情が変わりましたね。

 指導している子たちは、本当に子どものようにかわいいんですけど、デビューから時間がたつと「もう私の練習は来なくていいよ」って言うんです。何から何まで気にかけてアドバイスしていたところから放り出されて、苦悩したり、それを乗り越えてひとり立ちしていく姿を見て、目線が変わっていきます。そんな彼女達の試合をGMとしてでなく、プロレスファンとして見ていたいっていつも思っています(笑)。

――風香さんの中でこの子の成長が一番うれしかったという選手はいますか?

 やっぱり岩谷麻優ですね! 始めた頃はとんでもなかったんですよ、何もかもが!(笑)

 旗揚げ前は1期生しかいなかったので、私も含めてみんなでリング調整をしていたんです。そうしたら、「少し遅れまーす」と、おにぎりを食べている写真付きで連絡してきたんですよ! とんでもないですよね!(笑)
 さすがにそれはすごく怒ったし、それからも責任を与えられる度に逃げ出して。だけど「絶対に戻ってくる」という安心感があったんですよ。心のどこかで最後は逃げ出す子じゃないと。何度逃げ出しても戻ってきて、またやってくれていることがすごくうれしかったし、それこそ赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)を獲って、頂点に立ったのに、結局はケガをしてしまってベルトを奪われてしまい、そういう星の下の人なのかなと思います(笑)。だからまだ、ちゃんと頂点には立っていないですよね。いつか“岩谷政権”になる時が来るのがすごく楽しみです。

 いつか私がこうやってスターダムを抜ける時は来るとは思っていたのですが、世IV虎ちゃんと麻優ちゃんが赤いベルトを巻くまでは絶対に辞めないと思っていたし、5年以上スターダムを続けるというのもあったので、そういう意味で麻優ちゃんの成長が背中を押してくれました。

――今の話を聞くと、2017年までにスターダムが5年を越え、世志琥選手と岩谷選手が団体トップのベルトを巻き、ここでのすべての願いがかなったということなんですね。

 そうなんですよ! 本当にやり切ったというか、思い残すことはない感じです。

やり残していることは9期生のデビューだけ

3月28日までの間に、多くの人に直接あいさつしたいと話す風香GM。8年目を迎えたスターダムを是非、会場で! 【スポーツナビ】

――プロレス界における願いがかない、私生活でも結婚、出産と。すべてが順風満帆でこの度プロレス界からの卒業となりますが、今回は本当の卒業という思いが強い?

 私の性格がゼロか100かを求める方なので、多分、中途半端に関わることもないと思います。あとは育児という未知の世界に突入する中で、いつか必ず戻るという約束ができないのに、自分のポジションを空けて置いてもらうことは違うなと。
 あるポジションの人がいなくなれば、その後にはそのポジションをやる人が出てくるかもしれないけど、私がいるのかいないのか曖昧にしておくと、みんなも動きずらいと思います。ここで区切りを付けることが、最後のけじめなのかなと思っています。

――卒業が3月28日の後楽園ホール大会と決まりました。スターダムGMとして残りの時間をどのように過ごしたいですか?

 1番は15年間を支えてくれたファンの皆様に、一瞬の人も長い人もいたと思いますが、できれば一人でも多くの人にありがとうございましたと握手をしたいです。

 あと最後にやり残しているのが9期生をデビューさせることです。そこは絶対に責任を持ってやりたいと思います。

――それでは最後に、ファン方たちへメッセージをお願いします。

 3月28日まで残り短い時間ですが、自分が決めたゴールまで、体力が許す限り頑張りたいと思います。今決まっているスケジュールは全部参加するつもりなので、一人でも多くの方に直接お礼を言えたらいいなと思っているので、是非、会場に足を運んでいただければうれしいです!
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