箱根に懸ける選手の思いを電波に乗せて ラジオ実況アナウンサーが見た箱根駅伝
箱根駅伝を走る選手たちの生の姿を伝えるメディア。今回はラジオ日本の実況アナウンサーの方たちに話を聞いた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
そんな選手たちを報道するメディアの中で、ラジオ放送も毎年各局がレースの様子を現地から生で伝えている。その中では事前取材から選手たちの声を拾い、箱根路に懸ける思いを電波に乗せながら、ドラマチックな側面を演出している。
今回はラジオ日本で第94回大会の実況を担当する細渕武揚アナウンサー(往路)と、木村季康アナウンサー(復路)のお2人に、過去の箱根駅伝での思い出を語ってもらいながら、今大会の注目どころなどを聞いた。
細渕アナ「藤田選手のスピードが私の箱根の原点」
往路実況を担当する細渕武揚アナウンサー 【スポーツナビ】
最初の年が一番思い出深いのですが、当時は国府津の商店街にアーケードがありまして、その角のお店の屋根の上から実況しました。当時は若いディレクターと一緒になって、「全部の大学を逃さずに実況しよう」と目標を置いていて、屋根から双眼鏡を向けながら大学のユニホームを確認して実況していました。場所がトタン屋根の上ということで、直射日光が当たって冬でも温度計は25度を差していまして、大汗をかきながらランナーの様子を伝えました。
その年は駒澤大の藤田敦史選手が区間新を出した年でした。もちろんそれまで走ってきたランナーのスピードも速かったのですが、藤田さんが速すぎて、その時は「藤田、速い! 速い! あっという間に私の前を通過しました!」と、まるで100メートル走を実況しているようになってしまいました。その後もテンションが上がってしまって、同じような実況になってしまい7分間しゃべりっぱなし。往路のレースが終わった後には、先輩には呆れ顔で「もっとゆとりを持って実況しても大丈夫だよ」と言われてしまいましたね(笑)。ただそのときに感じた藤田選手のスピードというのが、私の箱根駅伝の原点です。
08年大会でリタイアとなってしまった小野裕幸選手。選手の無念さまでもが伝わってきた 【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】
棄権した選手の話といえば、08年大会で順天堂大の小野裕幸選手がリタイアしてしまいました。小野選手とは事前取材のときに競馬の話で盛り上がったりしていたのですが、そのときは、実況用のモニターが突然切り替わり、緊迫した状況を実況することになりました。その場所がゴールまで残り1キロもないところだったので、無念だったと思います。その無念さを実況するときの方が、選手に向けて頑張れと伝えたくなるし、逆によく頑張ったよという気持ちも伝えたくなりましたし、印象に残っていますね。
あまりにも速すぎた柏原選手の走り。CMのタイミングさえ考えてしまうほどだった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
あとは事前取材していると、箱根駅伝に懸けている選手も多いです。もちろん箱根駅伝を通過点と考えている選手もいますが、やはり出場権をようやく手に入れて参加できた選手には、箱根が中心になっていることが多く、その走る姿を実況していると、自然と応援したくなってしまいます。11年大会で4区の区間新を記録した帝京大の西村知修選手は、長崎の五島列島出身。中野孝行監督に勧誘されて入学したのですが、成長を見守ってきた選手なので、ガッツポーズをしてたすきリレーをしたときには、私も「良くやった!」という気持ちになりましたね。
(今大会の往路については)“青学包囲網”がしかれるなか、前回までとは構図が違います。今回は“青学一強”ではなく、混戦模様になると思います。ミスがない大学が勝つと言われていますし、あとはやはりどの大学の監督もおっしゃっているように5区ですね。“山の神”が現れれば、逆転や一気に戦況が変わるかも知れません。放送の中では、どこで抜きつ抜かれつの展開になるか、5区ではCMのタイミングとも戦いながら、実況描写をしていきたいと思います。
木村アナ「今回はアンカー対決がありえる」
復路実況を担当する木村季康アナウンサー 【スポーツナビ】
私は現在、フリーでアナウンサーをさせてもらっていますが、以前はラジオ福島にいました。その当時、ふくしま駅伝という市町村対抗の駅伝があるのですが、そちらで原町高校時代の今井正人選手がものすごいごぼう抜きを達成しました。県内では名の知れた選手となったのですが、私が初めて担当した年に、今井選手が5区で3年連続区間記録更新という偉業を成し遂げ、“山の神”となりました。そういった意味では福島のランナーのすごさを肌で感じた大会で、自分の中につながりを感じ、それから私の中で箱根駅伝への関心が深まりました。
神野選手の陸上への取り組みは原監督までもが褒めるほど。夢を語れる選手たちに感動 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
特に神野選手については、「陸上への向き合い方が違う」と話されていて、練習日誌をこまめにつけたり、体のメンテナンスも必ず週に1回は行うそうで、原監督でも指導したことがないタイプの選手だったそうです。取材当時はちょうど2年時で2区を走っていたときで、その後の3年、4年で5区を走りました。神野選手は当時から同級生同士で、「4年生になったら三冠を取ろう」と話していたようで、そんな大きな夢を語れることがすごいなと思いました。そして、3年生で5区を走ってチームの優勝に貢献し、次の年は1区からほかの大学に前を走られることなく、完全優勝を成し遂げています。三冠こそ達成できませんでしたが、翌年に一色選手らが達成したので、そんな夢を実現していく姿が見られたのが素晴らしかったです。
原監督も優勝直前は、けが人も多く、模索されている時代でした。ただ、今の大学駅伝はスピードに対応しないといけないからと、1キロ3分5秒のペースでは遅いということで、1500メートルのスピード練習を取り入れたり、その後には「青トレ」も有名になりましたよね。そのような黄金時代への変遷も見られたので、面白かったですね。
名門再建を託された別府監督。13年大会では采配もピタリで総合優勝を飾った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
そしてレース本番では、服部選手、矢野圭吾選手、本田匠選手といった軸となる3人がおり、本当なら1区から3区に置いて前半勝負をかける場合が多いのですが、それをバランスよく配置させたいとおっしゃっていて、実際、そのようにエントリーを配置しました。5区を走った服部選手に関しては、山上りの適正はないけれども、走力と気持ちが強いことで選んだそうなのですが、ちょうどあの年は2チームが棄権するほど強風で体力を奪われる年。その中で服部選手は悪コンディションにマッチして区間賞を獲得し、采配が当たりました。別府監督にはレース前に、ほかの強豪チームとどう戦うかという質問をしたのですが、「相手チームではなく、自分のチームがやるべきことをやるだけです」と話されていて、やはりやるべきことを徹底できるチームは強いですね。
(今大会の見どころは)青山学院大がいつトップに立てるか、ですね。ここが最大の注目点だと思っています。初優勝の年が5区で首位に立って優勝。2度目の優勝は1区からトップを譲らず完全優勝。前回は3区で首位に立ってそのまま優勝と、往路優勝から総合優勝へと突き進んでいます。今年に関しては、青山学院大がトップに立つのは、序盤ではないのではないかと予想しています。それこそ、山梨学院大のドミニク・ニャイロ選手の調子も良さそうですし、東洋大も全日本大学駅伝の走りがありますし、前半はめまぐるしく順位が入れ替わりそうです。そうなると往路の結果を見ないと、復路の予想は難しいですね。もしかしたら最後までもつれてアンカー勝負になる可能性もありますね。アンカー勝負でいいますと、01年大会で順天堂大が駒澤大を逆転優勝した時が、アンカー勝負での逆転だったのですが、それ以来のアンカー対決もありえるかもしれないので、楽しみです。
(復路の放送の中で伝えたいことは)私たちラジオ日本の放送の最大の聞き所は、選手の声が多く流れるところです。全チームの選手に、私たちの取材陣が意気込みを聞いて、その選手の生の声を流しています。私たちとしては選手の喜びや歓喜、笑い、涙、挫折も苦しみも、そういった瞬間をお伝えしていきたいと思います。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ