3枠目を勝ち取った田中刑事の“夜練” 限界の先につながっていた平昌への道
練習はうそをつかなかった
厳しい練習に耐えた成果は、4回転ジャンプが「今シーズンで一番良い状態」まで上がっていたことだった 【写真:坂本清】
「(厳しい練習で)体が思うように動かず、すごく重いときもありました。そのころに比べたら、今は体がまだ動く。あとは自分の気持ち次第だったので、強い気持ちを持つしかないと思いました」
体と心は連動する。余力が残っていたり、調子が良いときは、得てしてポジティブな気持ちを持てるものだ。練習で限界まで追い込んだからこそ、「試合になってからは体がどんどん軽くなって、良いイメージを持てるようになった」(田中)。
林コーチもその成果を実感する。
「練習はうそをつかなかった。フリーの後半に入った4回転トウループは、まさに練習あるのみでした。本当によくやったと思います」
田中は林コーチに感謝の念を抱いていた。
「この1カ月間の練習で、良いときも悪いときもずっと一緒にやってきました。その中で身についたものがやっと試合で出せた。成長のきっかけをこの舞台で見せることができて良かったと思います」
「五輪は競技生活における道しるべ」
平昌五輪まで約1カ月半。夢の舞台まで、田中は一歩ずつ進んでいく 【写真:坂本清】
「あの舞台で自分が思い描いた100パーセントの演技をできたら、今までの試合とは違う達成感があると思います。前回のソチ五輪では(羽生)結弦もそうだし、町田(樹)くんや高橋(大輔)選手もみんな輝いていたので、五輪でしっかり自分の演技を出し切れたときの達成感はすごいんだなと感じました。五輪はこれからの競技生活における1つの道しるべとなるし、出れば人生が変わるのかなと思っています」
4年前は代表争いはおろか、シニアにすら上がっていなかった。同い年の羽生が自分よりもどんどん先に進み、五輪の金メダリストにまでなった。スケーターとしても人間としても尊敬はしつつ、競技者として悔しい気持ちがなかったはずはない。それでも田中は1つずつ段階を踏み、着実に成長を続けていた。
「この4年間で大きく変わったと思うところはないです。急に伸びたわけではなく、少しずつ積み上げてきたものが、こうして完成度を高めたんだと思います。自分の中で苦しい時期もありましたが、実を結んだところもあるので、本当に少しずつ、ようやく上がってこられたなという感じです」
平昌五輪まで約1カ月半。夢の舞台で最高の達成感を得るために、田中は一歩ずつ進んでいく。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)