Jのオールスターと精鋭部隊の戦い 勝利だけではない、北朝鮮戦の「収穫」

宇都宮徹壱

今年のE−1で日本が優勝を目指す理由

前回大会は最下位に終わっている日本。今大会は国内組のアピールの場として注目されている 【写真:アフロスポーツ】

「EAFF E−1フットボールチャンピオンシップ2017」──これが、大会の正式名称である。1990年代に4回開催されたダイナスティカップが、東アジアサッカー連盟の創設(2002年)により発展的解消され、第1回東アジア選手権が日本で開催されたのが03年のこと。以後、日本・韓国・中国の持ち回りで2年ごとに開催され、05年大会から女子も加わるようになった。そして大会名は12年から東アジアカップとなり、3回目の日本開催となる今大会からはEAFF E−1選手権と改められた。

 ここ3大会は奇数年の真夏、もしくは真冬での開催が定着。女子は五輪予選やAFC女子アジアカップ(ワールドカップ=W杯予選も兼ねる)の前哨戦として、そして男子は海外組が呼べない時期であるため、国内組のアピールの場として注目されている。とりわけ男子については、国内組の選手は来年のW杯に向けてのラストチャンスだ。今回は、FIFAクラブW杯に出場する浦和レッズの選手が選外となり、さらに直前になってけがなどで3人の選手が離脱。その結果、追加招集も加えて初招集の選手は7名となった。

 そんな選手たちのコメントを集める中で、キーワードとして浮かび上がってきたのが「優勝」の2文字である。ディフェンスリーダーとして期待される昌子源は「個人の評価が大事になるこの大会で、チームが負けたら評価も何もないわけですから。まずは勝って優勝することが大事」。トップ下、あるいは左ウイングでの起用が予想される倉田秋は「ここでチャンスをつかみたいし、そのためには勝って優勝しないと全員が評価されない」。単に、出場チームの中で日本が戦力的に優位だから、ではない。むしろ、優勝しなければ「その先がない」という危機感の現れと捉えるべきであろう。

 つい忘れられがちなことであるが、前回大会の日本は初の最下位という屈辱を味わっている。大会の2カ月前、W杯アジア2次予選初戦となるシンガポール戦でスコアレスドローに終わったこともあり、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督へのメディアの論調も一気に厳しいものとなった。今回、2大会ぶりの優勝が実現すれば良い形で17年を締めくくることができるし、貢献した選手たちの評価もまたポジティブなものとなるはずだ。だからこその、優勝。そんな日本が初戦で対戦するのは、前回大会で1−2で敗れている北朝鮮である。

相手の背後を突くことができずに苦戦する日本

ファインセーブで何度も日本のピンチを救った中村(12)。交代出場の川又(9)も見せ場を作った 【写真:アフロスポーツ】

 この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK中村航輔。DFは右から室屋成、谷口彰悟、昌子、車屋紳太郎。中盤は守備的な位置に今野泰幸と井手口陽介、そしてトップ下に高萩洋次郎。FWは右に小林悠、左に倉田、そしてセンターに金崎夢生。最もキャップ数が多いのがベテランの今野で90、次が金崎で10である。この日、腕章を巻いた昌子も含め、残り9人は全員がキャップ数一桁で、中村と室屋はこれが代表デビュー戦。対する北朝鮮は、今回招集された3人のJリーガーのうちリ・ヨンジ(カマタマーレ讃岐)がスタメン出場となった。日本代表の対戦相手に、讃岐の選手がいるのは感慨深い。

 試合が始まってほどなくして、北朝鮮のスタイルの変化に気付かされる。豊富な運動量は相変わらずだが、展開力のあるきれいなサッカーをしていたのだ。実に四半世紀ぶりとなる、外国人指揮官の影響だろうか。「これは日本にとってやりやすそうだ」と、最初はうかつにも思ってしまった。しかしノルウェー人のヨルン・アンデルセン監督は、しっかりと日本対策を講じていた。当人いわく「相手にスペースを与えず、プレスをきつくして攻撃的にボールを奪っていく」、そして「マイボールにしたら素早く前線へ」。この戦術がピタリとハマり、北朝鮮はアウェーながらしっかりと試合のペースを握った。

 日本が主導権を握れなかった要因について、ハリルホジッチ監督は「相手がかなり低い位置でブロックを作っていた」とした上で、「相手の背後を狙うプレーができなかった」ことを挙げている。ではなぜ、背後を突くプレーができなかったのか? この点については、けがのためチームを離脱した「清武(弘嗣)のようなパスを出せる選手がいない」ことを指摘している。確かに、トップ下に起用された高萩はいわゆるパッサータイプではない。結局、その高萩を後半11分に下げて、伊東純也を右MFに投入。金崎と小林が縦に並ぶ4−4−2にシステム変更すると、26分には川又堅碁(金崎OUT)、36分には阿部浩之(倉田OUT)をピッチに送り出す。

 しかし、その間も北朝鮮が立て続けにチャンスを演出。際どいシュートを放つたびに、中村がファインセーブを連発する。後半25分には、縦パスから抜け出したパク・ミョンソンがフリーとなり、中村と1対1の場面を作ったものの、左足から放たれたシュートは大きく枠をそれた。そして、表示されたアディショナルタイムは3分。このままスコアレスドローかと思われた後半45+3分、途中出場の選手たちが見せ場を作る。左サイドからの阿部のスルーパスを川又が折り返し、今野がヘディングで落としたところに「フカさないことだけを考えた」という井手口の右足のシュートがゴールネットを突き刺した。文字通り、土壇場で日本のゴールが決まり、試合終了のホイッスルが鳴った。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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