「すべてが成長した」ラグビー日本代表 “選手の声”を生かして新しい形へ

斉藤健仁

堀江「どの試合でも相手のディフェンスが嫌がっていた」

フランス代表戦でトライを奪ったHO堀江。経験豊富な堀江も手応えを感じている 【写真:アフロ】

 またアタックでも大きな成果があった。6月までは中盤にFW3人のユニットを2つ作り、合計4つのユニットで戦っていたが、FWのユニットを1つにして3つのユニットで攻めつつ、「HOとNo.8に良いランナーがいる」(ジョセフHC)ため、一人を近場に立たせて内をえぐるように斜めに走らせて、もう一人を9番や10番の横にもう一人のFWといっしょに立たせることなどにより、より意図的に外のスペースを攻められるようになった。

 ラインアウトのサインプレーからトライを挙げたり、近場でSHからのワンパスをもらうために走り続けたりしていたHO堀江も「味方のくせや自分たちの戦い方も理解できて、試合を重ねるごとにどう戦うかができるようになって、一番、最後(のフランス代表戦)が動きやすかった。どの試合でも相手のディフェンスが嫌がっていた。良いところがいっぱい見られたと思う」と手応えを口にした。

 さらにフランス代表戦では、相手が前に出てくるディフェンスではなく、待って流してくるディフェンスだったため、先発SHに田中ではなく、流大を起用し、従来までのキッキングゲームではなく、パス&ラグビーを指向する柔軟性を見せた。スタジアムが屋根付きの人工芝でパス&ランラグビーに向いていたことも理由の一つだっただろう。特に後半開始早々、相手キックオフ後、自陣から10次にわたって左右にボールを振り続けて挙げたトライは日本代表のポテンシャルを世界に知らしめた。

新戦力の台頭でポジション争いも激化

秋の日本代表で大きくアピールしたFL/LO姫野 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 ただ本来、ジェイミー・ジャパンの持ち味である、相手と競り合うコンテストキックでSO田村優のオープンサイドのハイパントキックが長すぎたり、FB松島のグラバーキックが正確性を欠いたりと、相手にプレッシャーをかけることができなかったことは今後の反省点となろう。いずれにせよ、いろいろな形で相手にプレッシャーを与えられるようになったことは今後に向けては良い兆しである。

 またメンバー構成を見るとトヨタ自動車のルーキーFL/LO姫野和樹は十分にポテンシャルを発揮し、ヴィンピー・ファンデルヴァルトも本来のポジションではないLOで身体を張り続けた。またサンウルブズですでに実力を発揮していたPR具智元は遠征で初キャップを獲得し、ケガから復帰したWTBレメキも持ち味を発揮するなど新戦力の台頭は確実にチーム力向上をもたらした。

 FW陣に関してはサンウルブズのLOサム・ワイクス、FL/LOヴィリー・ブリッツらも来年には代表入りが確実視されているため、今後はますます層が厚くなっていくことは必至だ。

 さらにBKは逆に国際経験豊かな選手が多く、WTBにはケガをして今回の遠征に参加できなかった山田章仁もおり、今回のメンバーに割って入っていくことはなかなか難しいのが現状だ。ただ司令塔のSOには田村以外にもう1人ポジションを争う選手が出てきてもいいだろう。CTB立川もSOとしてプレーできるが、CTBにマレ・サウの代表復帰があるのであれば、所属のコカ・コーラでSOでもプレーしているラファエレ ティモシーのSOを試してみてもいいかもしれない。

「チームカルチャーが見えてきて成長できた」

攻守に大活躍したFB松島。チームにとって欠かせない存在となっている 【写真:ロイター/アフロ】

 秋のシリーズ前半戦で連敗し、遠征の2試合でも大敗したら、2019年に向けてやや暗雲が立ちこめるのではと……いった危惧は杞憂に終わった。

 過去2度W杯を経験している前キャプテンのHO堀江は「あまりピークが早くくると(W杯前に)下がっちゃうので、同点でみんな悔しい気持ちを持ったことがいいことだと思います。ドローで満足していないのが非常にうれしかった」と言えば、リーチキャプテンは「チームがより一体感を持ち、チームカルチャーが見えてきて成長できた遠征でした。トンガ代表に勝ったし、プロセスが結果につながって、みんな(やっているラグビーを)信じ始めている」とチームの進化を実感していた。

 またジョセフHCは「すべての面で成長した。ディフェンスはプラムツリーが参加してくれて、彼が経験を生かして強化してくれた。アタックは(遠征2試合で)違うゲームプランを持って試合に入ったが、選手たちは違う特徴を持つチームに違う戦い方を遂行できるようになってきた。(2019年に向けて)間違いなくいい土台が作れたと思います。このままW杯に向けて進んでいけると思います」と先を見据えた。

 いずれにせよ、2019年に向けたジェイミー・ジャパンの軸となる戦いがハッキリと見えた、実りの多い秋の欧州遠征だったと言えよう。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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