連載:初めてのセイバーメトリクス講座

「2番打者はバントすべき」を論破する! 初めてのセイバーメトリクス講座(5)

カネシゲタカシ

BABIPで投手の来季が占える?

沢村賞を獲得した巨人の菅野。2016年は好投しながらも9勝にとどまったが、今季は運も味方(?)に17勝を挙げた 【写真は共同】

鳥越:では次に本日もうひとつのテーマを。「BABIP(バービップ)」ってご存知ですか?

カネシゲ:これを「バービップ」って読むんだということは最近知りました(笑)。

鳥越:バービップとかバビップとか言います。これは「Batting averag on Balls In Play」の略で、ホームラン以外でグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合を表します。ここでは打者目線のものを「BABIP」、投手目線の方を「被BABIP」と表します。

カネシゲ:実際のセイバーの現場ではどっちも「BABIP」なんですね。

鳥越:そうなります。でも日本語は「被」という便利な言葉があるので、ここでは区別します。さて、その被BABIPは長くやっていれば、どんないいピッチャーであっても3割に収束するということが分かっています。

カネシゲ:確率の収束ですね。学校で習いました。

鳥越:それです。長期間では投手のタイプに関わらず、ほぼ差がなく、平均値はだいたい3割前後。そこから大きく外れた場合は「運」や「味方の守備」が左右していると考えられます。

カネシゲ:つまり、飛んだコースが良かった悪かったとか?

鳥越:そうです。また打ち取ったにも関わらず守備が下手だからヒットになるとかです。だから「今年このピッチャーすごい調子悪いけどどうしたんだ?」ってときは、被BABIPを見ればいいんです。この数値が高ければ「運が悪かったんだな。でも次の年は揺り戻しが来るはずだから今年よりは良くなるよ」というふうに考えられます。

カネシゲ: サイコロでいえば「ずっと6が出ているから、そろそろ別なのが出るよ」みたいな感じですね。

鳥越:それを年単位で見ると「今年は悪かったから、来年は良くなる」みたいに予想することができます。

【資料提供:鳥越規央】

鳥越:今年の数字を見てみますと、被BABIPが少なかったのは菅野智之(巨人)や菊池雄星(埼玉西武)。もちろん実力もありますが、運も味方に付けたという見方ができます。たとえば去年の菅野はすごく良いピッチングしたのに9勝止まりでした。被BABIPを見たら去年は2割9分と、やはり今年よりも高い。

カネシゲ:でも投球内容そのものは今年も去年も変わってないですよね?

鳥越:はい、なんなら今年より去年のほうが良かったぐらいかも。チーム守備力がそれほど変わってないとすれば、今年は運も味方に付けたことで17勝もできたという見方ができます。

カネシゲ:これ、3割に近づく長い期間というのはどれくらいを目安にしているんですか?

鳥越:すごく長い期間です。たとえばカネシゲさん、現役生活が長かったピッチャーといえば誰を思い浮かべますか?

カネシゲ:やはり元中日の山本昌さんですよね。

鳥越:はい。そこで実働29年の山本昌さんの被BABIPを調べたところ2割9分2厘でした。ちなみに同じく実働29年の工藤公康さんは2割9分5厘。

カネシゲ:本当に長くやればやるほど3割に近づくんですね!

鳥越:ほかにも例をあげると中日の岩瀬仁紀は2割9分9厘(17年5月24日時点)。ほんとにほぼ3割なんですよ。

カネシゲ:なるほど。面白いですね。

打者でBABIPが高い人には理由がある

鳥越:ではここから打者のBABIPの話をしましょう。打者に関しても昔は3割が基準と考えられていて、3割を上回れば運が良く「いいところにヒットが飛んだ」と言われていたんです。でもバッターに関しては、BABIPが高い人はしっかりとした理由があると考えられるようになってきました。

カネシゲ:そうなんですね。

鳥越:例えば左打者で足の速い人はBABIPが上がりやすいという傾向にあります。

カネシゲ:あ、わかった。左バッターで内野安打が多いからですね? たとえ打球が野手の正面を突いたとしても、ボテボテなら足でヒットにできますもんね。

鳥越:そういうことです。なのでイチロー(マーリンズ)や青木宣親(メッツ)はBABIPがとても高い。NPB時代、イチローで3割6分3厘、青木で3割5分9厘です。

カネシゲ:明らかに高いですね。

鳥越:左の俊足巧打。彼らは運というよりは技術としてBABIPを引き上げているということになります。ただ内川聖一(福岡ソフトバンク)は右打者で足も速くないのにBABIPが高い。3割2分4厘です。

カネシゲ:バットコントロールが素晴らしく、右打ちができるからでしょうね。野手のいないところに狙って打てる人は、そりゃBABIPも高いでしょう。

鳥越:なので、技術がある打者のBABIPは高くなるというのが最近の考え方です。ちなみに今年序盤の近藤健介(日本ハム)のBABIPは4割8分もありました。

カネシゲ:ほぼ5割じゃないですか! 彼も左打ちでバットコントロールがうまいタイプですね。今後、このまま運も味方につければ……

鳥越:4割打者も夢ではないでしょう。本日の講義は以上です。

カネシゲ:今日は数式が出てこなかったので、分かりやすかった〜(笑)
  
◆鳥越規央氏プロフィール◆
江戸川大学客員教授。「セイバーメトリクス」の日本での第一人者である。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ、「AKBペナントレース」の得点換算方法の開発など、エンターテインメント業界でも活躍中。JAPAN MENSA会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。12月よりNHK文化センター青山校にて『スポーツをデータで楽しむ』講座を担当する。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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