「2番打者はバントすべき」を論破する! 初めてのセイバーメトリクス講座(5)
【イラスト:カネシゲタカシ】
「2番・ペゲーロ」の破壊力
カネシゲ:やっぱり塁に出てくれる人ですね。足が速くて打席で粘れる人なら、なおいいです。
鳥越:なるほど。では、2番打者にはどういう人を選びますか?
カネシゲ:2番ですか? やはり「小技が利く」選手を置きたいですね。送りバントがうまかったり、進塁打が打てたり。
鳥越:そうですね。伝統的な打順の組み方では、1番は足が早くて塁に出る。2番は送りバントや進塁打が打てる。自分が犠牲になってもランナーを進めるというイメージがありました。でもそれって、敵にアウトをひとつあげていますよね?
カネシゲ:まあ、そうですね。
鳥越:だとしたら、1番が出て、2番でホームに返しちゃったほうが早いと思いません?
カネシゲ:そりゃそれができるに越したことはないですよ! でもなかなかうまくいかないから、送りバントするんでしょ?
鳥越:でも、今年の東北楽天が3位に躍進した理由のひとつに「2番・ペゲーロ」がありましたよね? 2番にホームランバッターを置くことでチームの得点力が大幅にアップしました。
■2017年、楽天の主な打順
1番:茂木栄五郎:OPS.867、本塁打17、犠打4
2番:ペゲーロ:OPS.846、本塁打26、犠打0
3番:ウィーラー:OPS.835、本塁打31、犠打0
4番:アマダー:OPS.729、本塁打23、犠打0
5番:銀次:OPS.728、本塁打3、犠打1
6番:島内宏明:OPS.743、本塁打14、犠打12
7番:岡島豪郎:OPS.692、本塁打3、犠打10
8番:藤田一也:OPS.626、本塁打3、犠打25
9番:嶋基宏:OPS.603、本塁打3、犠打27
カネシゲ:あっ、確かに。ペゲーロはホームラン26本で……犠打はゼロだ!
鳥越:というように、2番に強打者を置いて成功するチームが出てきました。実は15年の東京ヤクルトも、同様のオーダーを組んでいます。
カネシゲ:リーグ優勝したシーズンですね。
鳥越:7月上旬以降、2番に川端慎吾を入れました。3番・山田哲人、4番・畠山和洋と並べて「送る2番」から「ヒットを打つ2番」にしたんですね。川端のこの年の犠打は2つしかありません。
カネシゲ:ふむふむ。
鳥越:すると6月までは初回に得点した試合は3割台だったんですが、打順を組み替えた7月以降では初回に4割以上の試合で得点が入るようになりました。
カネシゲ:おお、つまり先制点が取れるようになったと?
鳥越:そういうことです。この年はリリーフ陣も良かったので、先制点を取ることで優位に試合を進められました。この打順変更が優勝につながったと言えます。その年のリーグ最多得点もヤクルトです。もう一つ、その翌年16年の広島は菊池涼介が2番でした。菊池は犠打も多いですが、16年はリーグ最多安打(181安打)なんです。犠打数も15年の49個から23個に大きく減っているんです。
カネシゲ:そう言えば、かつて北海道日本ハムも2番に強打者の小笠原道大を入れていましたよね。ずいぶん前の話ですが。
鳥越:ありましたね。ただあの頃は日本のプロ野球選手が、その策に慣れていなかったのかなと。栗山英樹監督も本当は大谷翔平を2番に入れたかったと言っています。だけど、日本人は2番に入れると2番打者のバッティングをしてしまう、と。
カネシゲ:なるほど。2番としての染み付いた固定概念がありますもんね。ペゲーロのような外国人選手ならそれはないですね。
鳥越:ということですね。
メジャーと日本の2番打者を比較
今季、2番で135試合に先発したドジャースのコリー・シーガー。OPSは「.854」だった 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】
鳥越:はい。これが今年のMLBの「打順別打撃成績」です。
【資料提供:鳥越規央】
カネシゲ:本当だ! 3番がもっとも高く、次に4番、そしてその次に2番打者がくるんですね。
鳥越:メジャーでは1番が出塁する選手。その後、犠打で送るんじゃなくて2、3、4番で決めるという考え方です。かつて3、4、5番がクリーンアップだったのが、いまや2、3、4番に繰り上がっているということがわかります。今年のドジャースもチーム3位のOPS(.854)をマークしているコリー・シーガーが2番に入っていました。
カネシゲ:それでワールドシリーズに進出したんですもんね。
鳥越:では日本の「打順別打撃成績」を見てみましょう。これは2013年のものです。
カネシゲ:いまから4年前ですね。
【データ提供:データスタジアム】
カネシゲ:そして犠打が平均して46個もある。
鳥越:そうです。これでは打線につながりがなくなってしまっています。
カネシゲ:でも得点圏に走者を置きたいじゃないですか。
鳥越:ポイントはそこです。じつは「送りバントでランナーを進めてチャンスを広げる」という発想は間違いということが、セイバーメトリクスでは証明されています。
カネシゲ:そうなんですか!?