チーム一丸でやるべきことをやる 稲葉ジャパン初勝利に見た野球の原点

中島大輔

4割超えの高い技術を見せた近藤

3点ビハインドの6回、先頭打者の近藤(右)が高い技術を見せるヒットで出塁。続く山川の2ランを呼び込んだ 【写真は共同】

 結果、6番から下位打線の出塁が得点につながると同時に、光ったのが3番・近藤の働きだった。3回に先制点を呼び込む内野安打を放つと、6回には相手投手が2番手の左腕ク・チャンモに代わった直後、2球目のストレートをレフト前に弾き返した。山川のツーランにつながるこの一打には、今季途中に戦線離脱するまで打率4割をキープした技術とメンタリティが集約されていた。

「映像を見ても真っすぐ系統が多くて、初球の真っすぐでしっかり軌道とタイミングを計って、次も真っすぐが来ると思っていました。イメージと体感した誤差があまりなかったので、すぐに対応できたと思います。今シーズンは凡打に左右されずに淡々とやると心がけて、気持ちの浮き沈みがなくなっています。(シーズンから)いいつながりで今回に臨めていると今日は思いました」

 若い選手たちが持てる力を発揮し、韓国に追い詰められる中で勝利をもぎ取った。8対7。結果はもちろん、試合でやるべきことをやるのが大事だと清水コーチは言う。

「このチームは3年後を見据えています。今日もそうですけど、選手たちには『2020年に僕も選ばれたい』という意識がどこかにあるんじゃないですか。必死になってやっているので、それがうれしいですね」

 一方、打撃力はすでに球界トップレベルの近藤は、「今回の代表は24歳以下ですし、(東京五輪には)選ばれるべき選手がいっぱいいて、その段階に僕自身はまだ達していないと思っています」と謙虚に語った。そんな近藤にとって原動力となっているのは、指揮官との特別な関係だ。

「この試合を何とか勝って、稲葉さんの初陣で優勝監督にできるようにという思いの方が強いです。現役もかぶっていますし、バッティングもいろいろなアドバイスをもらっていますし、いまも親身になっていろいろと声をかけてくれるので。変な言い方ですけど、周りからたたかれるのを見たくない。稲葉さんに対して、僕には誰にも負けない気持ちがあると思います」

稲葉監督「みんなでつかんだ1勝」

継投ではやや後手を踏んだ感があるものの、初采配で初勝利を飾った稲葉監督 【写真は共同】

 もちろん、勝利した中でも課題はある。12日の練習試合・日本ハム戦から調子の良くなかった薮田和樹(広島)を先発させ、4回途中までに3失点。韓国打線は6人の左打者を並べた中、左のリリーフは野田昇吾(西武)と堀瑞輝(日本ハム)しかおらず、継投が後手に回った印象だ。

 ただし、この時期の投手には疲労が蓄積しており、打撃戦になるのはある程度予想できた。そこで打線が終盤に力を発揮し、大会初戦の宿敵・韓国戦、かつ稲葉監督の初陣をモノにした点を評価すべきだろう。

 会見で、「試合をあきらめなかった選手にどんな声をかけたいか」と問われた稲葉監督は、こう答えた。

「国際大会はこういうものだと、選手もわかったでしょう。声をかけるというか、本当にみんなでつかんだ1勝です。また明日練習して、しっかり汗をかいて、明後日の台湾戦に向けてしっかり気持ちを切り替えてやっていきたいです」

 個々がやるべきことを実行し、最後まであきらめず、チーム一丸となって戦い抜く。若き侍ジャパンは野球の原点に立ち、大きな勝利で船出を飾った。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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