ケルンサポから無償の愛を受ける大迫勇也 ライター島崎の欧州サッカー見聞録(5)
大迫は4−4−2の右サイドで先発
この日のケルンはホッフェンハイムに完敗。それでもケルンサポーターは陽気だ 【Getty Images】
すでにチームに在籍して4年近くが経過していますから、チーム内のコミュニケーションも良好です。コーチングの声が頻繁に飛び、ボールを要求すればスムーズにパスが渡ります。それだけでも、彼が築いた今のステータスが確かなことがうかがえます。彼ほどの実力を備えたセンターFWはブンデスリーガでも稀少だと思うのです。ただ、僕はちまたで溢れている大迫への表現を安易に使いませんよ。あっ、大迫の強烈な右足ミドルシュートが右ポストを直撃! スタンドから「ウォーッ!」という大歓声! 「半端ねぇ〜」。
ちなみに大迫はアルファベットで「Osako」。ドイツ語読みでは「s」が濁るので、ドイツ人は彼のことを『オオザコ』と発音します。うーん、何だかテレビゲームの序盤戦に出てくるキャラっぽい……。
かたやホッフェンハイムは、他のブンデスクラブとは明らかにスタイルが異なります。味方GKから極力ショートパスでつなぎ、統率されたポジションチェンジを駆使して相手陣内へ一気に攻め込みます。ピッチの縦横をワイドに利用してボールが行き来するのでケルン守備陣は対応で手いっぱい。と思っているうちに前半10分、ホッフェンハイムが先制。172センチの小柄なプレーメーカー、デニス・ゲイガーは相当なテクニシャン。彼を見ていると、サッカーは体躯(たいく)だけで勝負するものではないと再認識。フィジカルをスキルで凌駕(りょうが)するすごみに感嘆のため息を漏らしてしまいます。
一方のケルンは、なかなか流麗なパスワークを見せられません。大迫、シモン・ツォラー、セール・ギラシらの攻撃陣が身体を張ってボールをキープし、後方の選手はスペースへボールを蹴り込んで走力勝負に持ち込むも、スキルフルなホッフェンハイムの守備陣に防御されてしまいます。ホッフェンハイムの選手は前線からバックライン、そしてGKを含めた全ての選手が意図のあるパスを繰り出しているのに比べて、うーん、正直言ってケルン、劣勢です……。
この街には、共存共栄の精神が満ち溢れている
ケルン名産の地ビールといえば「ケルシュ」。わんこそば形式でおかわりを供してくれます 【島崎英純】
美味しいケルシュを頂けるお店でソーセージとヨーロッパ版トンカツ「シュニッツェル」を食していると、愛想の良いウェイターが踊るように近づいてきてケルシュのグラスを入れ替えてくれます。
「もし知らないなら教えておこう。おかわりがいらなかったら、グラスの上にコースターを載せるんだよ。そうすれば『もう結構』という合図で、オレはもう来ないから。でもね。君がグラスにふたをしないなら、オレはいつまでもおかわりを持ってくるよ。君が満足するまで、いつまでも。それがケルナーのおもてなしなのさ」
そうか、そうなんですね。ケルンの人々は、無限の奉仕で対象への親しみを表す。ならばケルンがどんなに弱くても、ふがいなくても、彼らは必ずスタジアムへ駆け付ける。お祭り騒ぎをする外づらの裏には、無償の愛がある。ラインエネルギー・シュタディオンの空気が戦闘的でありながらも、どこか温かいのは、そんな地元の方々の熱意が放散されているからなのかもしれません。そして、そこで懸命にプレーする日本のエースFW大迫は、その責任を一身に背負いながら、あの深緑のピッチを駆けているのです。
ケルンの応援歌の原曲である『Loch Lomond』には、こんな歌詞があります。
「君は高い道を行き、僕は低い道を行く、悲哀を胸に、再び会う日まで」
ケルンサポーターはチームを、選手を支える存在。苦しく厳しい日々が続いても、彼らがクラブから離れることは決してありません。この街には、お互いを慈しむ共存共栄の精神が満ち溢れているのです。