DeNA今永が目指す真のリベンジ 昨年の悔し涙から今年「幻想」の涙へ

日比野恭三

広島とのCSファイナルステージ第4戦、中継ぎで2イニングを完璧に抑えた今永 【(C)YDB】

 10月24日、マツダスタジアムの大時計の針はまもなく夜の10時を指そうとしていた。

 クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦、セ・リーグ王者の広島を9対3で下し、日本シリーズ進出を決めたのは横浜DeNAだ。試合終了直後の三塁側ベンチは、歓喜の雄叫びが飛び交い、チームスタッフたちの笑顔であふれていた。

 そこに、どこから現れたか、この日はベンチ入りしていなかった今永昇太の姿があった。強烈な光を放つナイター照明が彼の目元できらりと反射するのが一瞬見えた。

 セレモニーを終えてバスへと引き上げる今永に声をかけた。「あの涙は」とだけ言ったところで、今永は笑った。

「いやいや、幻想じゃないですか。幻想を見たんですよ、きっと」

昨年は後がない試合で1回6失点

 たしかに聞くだけ野暮だったのかもしれない。

 今永は、2年連続となるCSに悲壮な覚悟をもって臨んでいた。ファーストステージの開催地である甲子園へと旅立つ前には、重いフレーズを次々と並べた。

「CSの悔しさはCSでしか返せない。やり返さないと、まったく意味がないと思う。そこで負けたら、自分が(今シーズン)投げてきた試合全部が“無”になるぐらいの気持ちでやらないといけない」

 悔しさの源泉は、昨シーズンのCSファイナルステージ第4戦にある。今回と同様にマツダスタジアムで戦ったDeNAは、この試合の先発をルーキーだった今永に託した。広島に1勝のアドバンテージも含めて3勝1敗とされていたDeNAは、後がない状況に追い込まれていた。

 しかし初回、打率8割8分9厘をマークしていた広島のリードオフマン、田中広輔を四球で歩かせたところからボタンの掛け違いは始まる。3番の丸佳浩にも四球を与え、そこから安打、安打、本塁打。結局、のべ11人の打者に48球を投じて6失点。この1イニングで、無念の降板となった。

 味方打線の追い上げも及ばず、7対8の惜敗でCS敗退が決定した。2016シーズン最終戦の負け投手となった左腕は、試合後、悔しさを抑えきれず泣いた。

雨に予定を狂わされ中継ぎで登板

 リベンジを誓った2度目のCSだったが、先発を命じられたファーストステージ第2戦は、降りしきる雨が試合展開を特殊なものにした。

 回を重ねるごとに土は泥に変わり、降雨コールドゲームの宣告がいつなされるかもわからない状況。第1戦に敗れていたDeNAとしては、阪神のルーキー大山悠輔に勝ち越しソロを浴びた今永を3回(3失点)で見切らざるを得なかった。

 広島でも雨に予定を狂わされた。先発するはずだった試合が順延となり、今永は2日間を空けて開催された第4戦で、プロ入り後初めて中継ぎ要員としてブルペンで待機した。

 7回裏。夜空を埋め尽くした赤い風船が地に落ち視界が開けると、マウンドに背番号21が立っていた。リードはわずか1点。先発のウィーランドから、砂田毅樹、三上朋也、エスコバーと渡ってきたバトンの重みを感じつつ、今永は打者に向き合った。

 のっけからギアはトップに入れた。直球は走り、スライダーまでもが140キロを超えた。2イニング、打者6人をパーフェクトに抑え、ラミレス監督の思いきった起用に満点で応えてみせた。

「全部が初めてなので緊張しました。ブルペンで全力で投げて、それをしっかりとマウンドに持っていくことができたので良かったかなと思います。あれだけ腕を振れれば打者も打ちづらいだろうし、変化球も切れてくる。この体験は先発した時のヒントになる部分でもあった」

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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