すべてを懸けてつかんだACL決勝の切符 浦和が示したアジア王座奪還への思い

島崎英純

出色の出来だった長澤、柏木、槙野

CKからラファエルの決勝ゴールをアシストした柏木(10番) 【赤坂直人/スポーツナビ】

 それでも相手のアタッキング能力は強烈だ。フッキにシュートコースを与えれば30メートル離れた距離でもミドルシュートを打ち込まれるし、オスカルのボールキープ力とステップワークは脅威で、少しでも体軸を振らせば後方スペースを取られてラインブレークされてしまう。ただ、今回の浦和はチーム全体の守備意識が高く、局面勝負で対等に戦い、そのほとんどで優勢を保てたために守備組織が崩れなかった。

 特に高い評価を与えたいのは、準決勝2試合で180分間フル出場して中盤を締めた長澤だ。安定したプレーの連続で攻守両面に関与し、上海上港の選手たちを終始抑え込んだ所作は「見事」の一言。鋼のような体躯(たいく)のフッキに跳ね飛ばされたかと思った瞬間に、そのパワーを逆利用して一歩前に踏み出す。柔道の観念にも似た、しなやかさの裏に強靭な体力を宿すプレーアクションは流麗で、ドイツ・ブンデスリーガのFCケルン在籍時代に培った経験が見事に昇華され、長澤はフィジカルに難を抱えると言われる日本人選手のプレースタイルを改めさせるほどの新境地を開拓した。

 また、第1戦で貴重なアウェーゴールを奪い、第2戦ではCKからラファエルのゴールをアシストした柏木の神通力も称えたい。“恩師”ペトロヴィッチ監督の解任を受けて人知れず涙した人情家は、けがも重なって新体制移行後はなかなかチームに貢献できないでいた。普段は雄弁な彼が最近黙して語らなかったのは、自らの責任を激しく痛感していたからだろう。10年シーズンにサンフレッチェ広島から浦和へ移籍してから、彼にもたらされたタイトルは昨季のルヴァンカップ1冠だけ。周囲からタイトルマッチに弱いと揶揄(やゆ)されていることは誰よりも本人が自覚している。そんな彼が今回、極限のゲームで結果を残した。だが、彼はこうも思うだろう。まだ決勝が残っている。最終決戦を制して初めて、自らが浦和に来た意味を成す。どうか彼のこれまでの辛苦と苦難と、浦和に対して注いできた献身が実ってほしいと願う。 

 そして槙野にも柏木と同様の評価を与えたい。フッキをマンマークし続け、準決勝2戦で1失点のみに抑え込んだ迫力は、チームのムードを高める原動力になった。彼もまた、このチームに貢献してきた思いを決勝の舞台でぶつけるだろう。

キャプテン阿部「全員で、喜び合いたい」

試合後、サポーターで埋まるスタンドを見上げるキャプテン阿部 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 他にもサイドを上下動し続けた武藤雄樹、中盤に君臨した青木、第2戦決勝ゴールのラファエル、後方で右サイドを監視し続けた遠藤、屈強でテクニカルな2面性を持つCBのマウリシオ、そして最前線で孤立する中でも一切動きを止めず、守備にまで奔走した興梠。交代出場のズラタン、梅崎司、李忠成。浦和に所属するすべての選手たちの貢献は多大だった。第2戦はベンチ入りメンバーから外れたチーム最年長の平川忠亮が試合前に言っていた。

「全員で、すべてを懸けて戦う」

 平日にもかかわらず多数の観客でスタンドを埋めた浦和サポーターの支えは、何よりもチームの力になった。キャプテンの阿部は常々、こう言っている。

「自分がこの場所で生きる意味はひとつだけ。思いを集約して、共に闘う。皆で、全員で、喜び合いたい。それが俺の唯一の願いなんだよ」 

 上海上港を打ち破った後、スタジアム場内を一周する中で、キャプテンは常にスタンドの“仲間”を見上げていた。しかし彼の心はまだ強く引き締まったままだ。

「10年ぶりに決勝へ進めたことはうれしく思いますけれども、まだ進んだだけ。まだ何も成し遂げていない状況です」

 あと一歩で届かなかったゲームが幾つもある。その悔しさを知るからこそ、一喜一憂はしない。

 誰のためでもなく、浦和は、浦和のために、10年越しのアジアタイトル奪還を期する。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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