補強戦略との“ズレ”に苦しむミラン 指揮官を悩ます、選手起用のジレンマ

片野道郎

3−5−2に感じた新たな可能性

インテル戦の後半では3−5−2に新たな可能性が見られた 【Getty Images】

 いったんは継続性を重視してスソに最適化された4−3−3を選んだモンテッラだったが、あらためてそのジレンマに直面して選んだのは、ボヌッチをより生かすことで守備を安定させる3−5−2だった。だがこのシステム変更も、状況の劇的な改善につながったわけではなかった。

 アグレッシブなプレスを行わず自陣での待ち受け守備を基本とする格下のウディネーゼとの対戦では、後方からのビルドアップに障害が少なく、敵陣でのポゼッション確立がスムーズに進み、さらにそのポゼッションを通してボールロスト後のプレスに備えた陣形バランスも整えるという「ポジショナルプレー」がそれなりに機能した。

 しかしそこから対戦相手のレベルが上がってくると、サンプドリア、ローマに連敗。そして、このミラノダービーでも2度許したリードをばん回しながら、最後の最後でPKを与えて3連敗を喫した。順位的にも、かなり厳しい状況に陥っている。

 そうは言っても、まだ構築途上のチームがその途中で設計変更したのだから、それなりの完成度に到達するまでに時間が必要なのは当然の話。実際、結果的に敗れたとはいえ、このダービーでの戦いぶり、とりわけ後半のそれは、この3−5−2が持つ新たな可能性を垣間(かいま)見せるものだった。

 インテルが1−0でリードして終わった前半の戦いぶりは、大きく精彩を欠いた。イバン・ペリシッチ、アントニオ・カンドレーバという強力な相手ウイングの突破力を警戒してか、守備時の布陣は完全な5バックの5−3−2。しかも、攻撃に転じても両SB(とりわけ左のロドリゲス)は攻め上がりを自重するため、攻撃に幅が作れず、チーム全体を効果的に押し上げることができない。いい形でインテルゴールに迫った場面は、前半終了間際にケシエが独力で縦に突破し、珍しく敵陣深くまで攻め上がったファビオ・ボリーニがシュートを放った一度だけだった。

 1点を取り返す必要に迫られたモンテッラは、後半開始からMFケシエを下げてFWクトローネを投入、前半はA・シウバと2トップを組んでいたスソを1列下げて、右インサイドハーフとしてプレーさせるという修正を施した。

 前半は、スソが中盤に下がったりサイドに流れたりして組み立てに絡もうとする一方で、最前線でCB2人に挟まれて孤立したA・シウバはほとんど何もできないままという状況が続いていた。しかし後半に入ると、CB2人と2対2の関係になった最前線で、クトローネが裏のスペースを狙う動きを執拗(しつよう)に繰り返して揺さぶりをかけ、SBも積極的に攻め上がって攻撃に幅を作り出す。さらに中盤に下がってボールに触る機会が触れたスソも、より効果的に組み立てに絡み始めて、ミランがポゼッションを確立して敵陣に押し込み、FWにボールを送り届ける場面が一気に増えた。

 この時の実質的な陣形は、前述の2−3−5よりも前線が1人少ない3−3−4。しかし2トップと2枚のSBが敵4バックに対して、4対4の数的均衡を作り出し、そこに中盤からスソやボナべントゥーラが絡んでいくことで、前半と比較すると、攻撃は幅と厚みが大きく増した。後半11分の同点ゴールも、ペナルティーエリア内で4対4の関係ができた手前で、スソが前を向いたところに、最終ラインからムサッキオまでがオーバーラップしてマークをはがし、フリーになったスソが狙いすましたミドルシュートをたたき込むという分厚いものだった。

取りこぼしの許されない状況、“時間との戦い”に

現在10位と、とりこぼしの許されない状況に置かれているミラン。モンテッラ自身の立場が危うくなる可能性もあるだろう 【写真:ロイター/アフロ】

 モンテッラの理想は、こうした形でボールを支配して敵陣に押し込む時間を長くし、ボールを失っても素早いプレッシャーで即時奪回、そうでなくとも敵の攻撃を遅らせて、常に主導権を握りながら90分を戦い切ることだろう。そのひな形のようなものが、このダービーの後半に垣間(かいま)見えたことは間違いない。

 しかし、この布陣はもともと多少の無理を承知で、1点を取り返すために打たれた一手から生まれたもの。現状では、攻撃の威力は高まるものの、重心が前にかかり過ぎている上に、ボールロスト時に効果的なプレッシャーをかけられるだけのポジションバランスが確保されていないため、カウンターを喫するリスクが高いという根本的な守備の課題は解決されていない。

 後半18分に喫した2−1のゴールは、中盤でビグリアがイカルディのプレスを受けてボールを失い、そこからカウンターで一気に持ち込まれるという展開から決まったもの。それ以外にも、プレスが甘く簡単にオープンスペースに持ち出されてカウンターを喫する場面が再三見られた。決勝ゴールのPKにつながるコーナーキック(後半43分)をもたらしたのも、マティアス・ベシーノが自陣からドリブルで持ち込んで作り出した決定機だった。

 3−5−2を維持したまま、2トップに2人のセンターFWを並べ、武闘派のケシエを外してスソを右インサイドハーフで起用するという後半の布陣は、こと攻撃の局面に話を限れば、「スソとボヌッチのジレンマ」を解決するだけでなく、前線も強化されるだけに、現陣容のポテンシャルを最大限に引き出せるソリューションかもしれない。とはいえ、守備力に明らかな難点を持つスソ、ボナべントゥーラ(またはハカン・チャルハノール)を同時起用した上で、攻守のバランスを実現するためには、戦術レベルで組織的な連係の練度を大きく高める必要があるだろう。

 ここから、ジェノア、キエーボ、そしてユべントスとミッドウイークも含めて中2日で続く3連戦は、このダービーの前後半で顕在化した3−5−2の可能性と限界をモンテッラがどう乗り越えていこうとするのか、その先にどのような完成形を見いだそうとするのかという点で、非常に興味深い試合になるだろう。最大の問題は、順位的にもはや取りこぼしは許されない状況に置かれていること。未来に向けた試行錯誤より、目先の結果を優先しなければならないという厳しい縛りがあることだろう。

 モンテッラはダービー後の会見で「この3−5−2には大きな可能性がある。今日の後半はそれを見ることができた。私はこのチームのポテンシャルを信じている」と語っていた。だが、目先の結果が伴わず4位の座がさらに遠ざかっていくようなことになると、モンテッラ自身の立場が危うくなることもあり得る。ここからは文字通り、“時間との戦い”である。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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